ステアリング処理 (エンコード)
更新040710
初稿021205
ではステアリング処理のうち、映画フィルム、またはVTR/LD/DVDに記録するための音を作る側の処理、つまりエンコードの話をします。
ステアリング処理の音源は3チャンネル、または4チャンネルです。ここではドルビーSR(映画館用)の音源をつくるためのエンコードをみてみましょう。ドルビーSRの音源は、プロロジック(家庭用)の音源として流用されますので、プロロジック用のエンコードともいえる処理です。以下ドルビーSR(プロロジック)と表記します。
ドルビーSR(プロロジック)音源の元の音は4チャンネルです。つまりフロントが3チャンネル (L/C/R) とサラウンドが1チャンネル (S) です。
この音は編集時にミクシングコンソールのなかにはありますが、編集をする人はこの4チャンネルの音をそのまま聴くということは絶対にありません。
この4チャンネルの音源はドルビーSRのエンコードをして、ただちにデコードして、その音をダビングシアターのスピーカで鳴らし、それを聴きながら編集するのです。なぜなら、それが観客が聴く音だからです。
ただまあ、わかりやすさのため、上の図ではリスナーの回りに音源を並べてみました。
ではエンコードの方法ですが、ここでLtとRtというのが出力端子です。tはトータルの意味です。
さて、まずLチャンネルの音とRチャンネルの音は、そのままLtとRtにでてきます。
次にセンター成分を、0.7倍して、これをLtとRtに同じ大きさで混ぜ合わせます。0.7倍というのは-3dBともいいますが、2チャンネルステレオでセンター低位する音がLやRから単独ででている音と同じ音量になる係数です。2チャンネルステレオレコードのセンターボーカルの音量だと思えばいいでしょう。
したがって、この時点でLtとRtをステレオ2チャンネルとして聴くと、Cの音は左右のスピーカのセンターに自然に定位します。
なお、またここまでの処理は、サラウンドEX映画(6.1チャンネル映画)のサラウンド側の処理も同じです。つまり、SL/SR/SBの3チャンネルをSL/SR (正確にはSLt/SRtとでも書くべきでしょうか)という2チャンネルにエンコードする場合に、ここまでと全く同じ処理が使われます。
最後にサラウンド用の信号Sの処理です。Sは前項で説明した位相シフターを通して、位相を90度進めたものをLtに、また90度遅らせたものをRtにミクシングします。
だからSは、Lt/Rtに逆位相で含まれているわけです。これをステレオ2チャンネルとして聴くと、音は聴こえるがどこから音が来るかわからない不思議な(気持ち悪い)音となります。
このほかSには、帯域制限(高域と低域をカットする)やノイズリダクション(エンコード時に高域を持ち上げ、再生時に高域を下げる)という処理が加えられますが、難しいのでここでは省略します。
これでエンコードは終わりです。出力のLt/Rtはフィルムに記録されたり、ビデオテープやLD/DVDに2チャンネル記録され、鑑賞に供されます。
ちなみに、上述のように、Lt/Rtというのは、Lトータル、Rトータルの意味ですが、ポイントは「Sを位相シフト処理をして加算したサラウンド用のダウンミックスエンコードがされている」ことにあります。
注)このほかSをCと同じように-3dBだけして単純にL/Rに加算する処理も存在します。これはサラウンドデコードをされることを前提とせずに、2チャンネルで鑑賞することだけを考えたダウンミックスで、出力はLa/Ra (Lall/Rall) と呼ばれます。
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