ステアリング処理 (位相の話)


更新040710
初稿021203


さて、ステアリングの話を多少正確にやるには、「位相」という概念を知っていただく必要があります。といっても簡単な部分だけ知っていればOKです。

位相は繰り返す波の進みや遅れを角度で表現ずく方法です。もともとは波を数学的にとらえる手法ですが、ここではステアリング(それもマトリクス)に関係するところだけを解説します。



まずここにひとつの波形のサンプルがあります。周波数は問いませんが、とにかくある周波数の音の波形があるとします。

で、波には「繰り返し」という性質があり、一定周期ごとに同じ状態が現れます。もちろんだんだん大きくなって行く波形、突然止まる音、などという場合は波形は連続ではありません。しかし多くの場合、一定時間内では同じ形で繰り返しているとみなせます。

もともと人間は、空気の疎密波を音として感じるためには、一定の周波数の振動がある程度の時間(たとえば0.1秒以上)続いている必要があるので、とりあえず音波は繰り返しているという仮定には合理性があります。

というわけで波形は繰り返しているとして、この波一つ分 (一周期分)にまず注目します。そしてこの一周期の間を「360度」と呼ぶことにします。つまり波形の一周期に円の回りを一回転したのと同じ意味を与えているわけです。

つまり上の図のように、山から山が360度です。もちろん谷から谷でもかまいません。ゼロの点からゼロの点でもかまいません。波形が一回うねって元に戻るまでが360度です。

また山から谷のように、波形ひとつの半分を180度といいます。当然その半分は90度です。

このように、波形の一周期を360度として、その範囲内の位置を角度で示す言い方を「位相」といいます。




次に、二つの波形の関係を位相で言う場合の話をします。この図は、上の波形に対して、下の波形は正負が逆になっています。これを「波形が反転している」といいます。



しかし緑の玉 (つまり波形の山) に注目すると、下の波形は上の波形に対して180度のところにあります。ですので、下の波形は上の波形に対して、180度ずれているという言い方をします。

また波形が上下逆になっていることと合わせて、「逆の位相である」「位相が逆である」「位相が反転している」などといいます。つまり「位相」という言葉はもともとは角度を表す言葉なんですが、二つの波形の関係を表す一般的な言葉にもなっているわけです。

なお、このように反転した波形は、アナログ回路では反転増幅器といって、正負が逆になる回路を使って作られます。デジタル信号処理では、各データに「-1」を掛け算することでえられます。



ではこれはどうでしょう。下の波形は上の波形に対して、1/4周期遅れています。

このような位置関係を「下の波形は、上の波形より90度位相が遅れている」、または「-90度の位相である」といいます。

逆に「上の波形は下の波形より90度位相が進んでいる」ともいえます。

このように、波形を90度遅れさせたり進ませたりするのは、アナログでは位相シフターという特殊な回路を使うと実現できます。デジタル演算でも位相シフト演算という演算があり、DSPで波形を送らせたり進ませたりすることができます。



これはAという元の波形に対して、位相シフターで90度遅れたBと、90度進んだCを作ったものです。

どうでしょう。BとCはAを90度進めたものと遅らせたものですが、両者は180度の位相、つまり正負逆の波形になっています。なのでBにCを足すと信号はなくなります。またBからCを引くと、Aより位相が遅れて振幅が二倍の波形がえられます。

プロロジック方式の前半処理であるマトリクス処理では、この位相シフト演算と波形同士の加算・減算を使いますので、ここで雰囲気をつかんでおいてください。



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