TA-DA7000ES//Q&A



050509掲載

ご質問

9000も7000もエージングで音質が非常に変化する、という記述を良く見るのですが、ご専門の立場からこの“エージング”なるものについて、実際にアンプの中に電気信号が流れ出すことによって、どんな物理的な変化が生じ、その結果どうして音質が変化してくるのか、ご説明していただけますでしょうか。

スピーカーをエージングする事によって変化する理由は、振動版が使用されることによって馴染んでくるためであろうことは容易に想像がつくのですが、可動する部分のないアンプや、電源ケーブル、スピーカーケーブルなどが、通電されることによってなぜ音質が変化するのかよくわかりません。


回答

可動部分でなくても、導体に電流が流れればその経路に必ず物理的、化学的な変化がおきます。それが次第に電流の経路の性質を変えますので、音質は変化します。

その変化は最初の数カ月はかなり大きいのですが、部品の音質変化が分かりやすい増幅方式が選ばれていると、その変化もまた強く感じます。

TA-DA7000ESやTA-DA9000ESは、負帰還を使わないデジタルアンプなので、こうした電流経路の影響が比較的分かりやすく、エージングによる変化は比較的分かりやすいと思います。

その代わりごまかしが効かないので、良質の部品が選ばれており、またすべての部品のバランスをエージングが終わった時期に合わせてあります。このため初期状態ではやや硬質に感ずることがあると思いますが、次第に落ち着いて行きます。これは部品の素性が正直に聴こえていると考えていただいて結構です。

エージング完了後は、今度は負帰還で縛っていない利点が出て、部品固有ののびのびとした音がおおらかに出てきます。これがTA-DA9000ES/TA-DA7000ESの本来の音質です。

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さて、本論。可動部でない部分のエージングはどこで起こるのか。ここでは比較的影響が大きい電解コンデンサを中心に書いてみましょう。

・電解コンデンサの再化成

実はアンプのエージングの半分以上が電解コンデンサの音質変化によるものです。



アンプの中にはチューブをかぶった円筒形の部品が多数使われます。小さいものは直径5ミリくらい。TA-DA9000ESには直径60ミリという巨大なものも使っています。この形の部品を電解コンデンサといいます。

電源も増幅回路も、この部品がないと成り立ちません。かないまるはこうした部品の音質改良もアンプ設計の一環としておこなっています。

ヒットモデルを作る場合、音質を支配するこうした部品は、特注扱いとなり、部品メーカーさんとの共同作業によりモデルの音質設計の一環として仕上げられて行くのです。TA-DA9000ESとTA-DA7000ESに使っている電解コンデンサーの大半は、私と部品メーカーさんで共同で開発したものです。

構成材料
電解コンデンサーの構造図
(出展 : http://www.chemi-con.co.jp/support/t_release20040129.html)

電解コンデンサはこんな構造をしています。つまりアルミ箔と紙を交互に重ね巻いたものです。絶縁物を導体で挟んだものがコンデンサですが、紙には電解液(導体)をしみこませますから、単なるアルミ箔ではコンデンサにはなりません。

等価直列回路
電解コンデンサの等価回路
(出展 : http://www.chemi-con.co.jp/support/t_release20040129.html)

ところがアルミ箔の表面は酸化アルミニウム(AL2O3)になっているのです。酸化アルミニウムは絶縁物で、非常に薄く電荷を溜める力が大きいので、良質のコンデンサとなります。

このアルミ箔の表面を酸化アルミニウムに変える作業は、製造時に箔の段階で一括しておこないます。これを化成処理といいます。

この化成処理でアルミ箔は、いったん完全に絶縁膜で覆われますが、コンデンサとして組み立てるときに、電極リード線と溶接またはカシメにより接続します。このとき一度、酸化皮膜が壊れます。というか酸化膜を突き破らないと接続できません。このほか化成された箔を部品の幅にスリットするときに、箔の端面は生のアルミがむき出しになります。

したがって製造直後は、電解コンデンサはこうした部分で電解液と導通し、電気的につながった、つまりショート状態になっています。

そこで製造後に電圧かけて電流をながしてやります。すると電解コンデンサ内の電解液で電気分解が起こりアルミが剥き出しの部分に酸化皮膜が成長し、絶縁が回復します。これを再化成処理といい、コンデンサメーカで出荷前におこなわれます。

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さて、ここまでで処理は99.9%終わっていますが、残りのホンのわずかの部分はアンプに組み込まれてから、実際に通電することで完成されます。なぜなら、単に直流をかけた場合と、実際にアンプとして使う場合とでは、化成電流の形が違いますから、音質のなじみは、やはりアンプに組み込まれて通電されてからが育った方がよいからです。

とくに化成工程できちんとつけられた皮膜の上にもユーザの好みを反映した皮膜が成長しているとかんがえていただいても結構です。理想的にはそれは起こらないのですが、化成皮膜はある意味傷だらけなので、その傷を修復する過程でユーザの好みはきちんと反映されるようです。



・接点のエージング

アンプには数多くの接点があります。コネクタは接続を目的とした部品ですから直接的な接点ですが、そのほか部品内にも接点があります。たとえばリレーは電気制御の接点です。また抵抗の内部でカーボン抵抗体と電極をカシメてある部分はやはり接点です。

こうした接点は、製造直後はストレスが入っており、また接触も安定していません。

ところが接点は時間が経ち、とくに音圧により振動を受けることにより接触部周辺が物理的に変形してゆきます。要するに物理的に変形してスワリがよくなるのです。

こうなると、初期に振動により接触抵抗が歪んだ形で変化していたのが、次第にきれいな変形に変わって行きます。したがって音質がよくなります。



・電線のエージング

驚くべきことに電線もエージングされます。プリントパターンも部品のリードも、すべてがエージングされます。

電線は金属結晶でできていて、結晶内は比較的安定です。電子は結晶格子のなかは悠然と流れて行きます。

しかし結晶と結晶の境界面は金属分子は連続しておらず、粒界にある酸化物や硫化物を乗り越えて電流が流れます。つまりこの障壁を乗り越えるには若干の電圧が必要であり、これがオーディオ信号にロスを与えたり歪ませたりするのです。細かい情報量が最初のうち出にくいのもそのせいです。

この結晶粒界は間違いなく一種の接点ですが、酸化物や硫化物がころがっていてあまりきれいではありません。なので振動の影響により伝導度が変わるので、音質に影響があります。

こうした結晶粒界も電流が流れることで、電気化学変化が起こり、乗り越えるべき電圧の高い不純物をさけるようなパス(金属結晶の成長など)が次第に生成されるなどで音質がよくなって行きます。

このほか電線に関しては幾つか気づいていることがあるのですが、ノウハウなのでヒミツです(^_^;)



・メカのエージング

アンプでメカといったら、シャーシのことです。箱ですね。TA-DA9000ESもTA-DA7000ESも外観はアルミっぽい感じがデザイン的に強調されていますが、実際に強度を出しているのは鉄です。

鉄の部材はビスで結合されて箱になりますが、組み立て直後は部品の精度のバラツキなどによりストレスが入っています。ストレスが入るとシャーシの共振周波数があがり、また音速があがりますので、音質は硬質な方向になります。

もちろんそのままチューニングしてしまうこともできますが、シャーシは必ず緩むものなので(ストレスはいつかは抜けるものなので)、最初からそれに合わせてしまうと、エージング後グズグズの音になってしまいます。

実際はエージングが終わった状態でセットの最終音決めをしますが、そのやって設計を終わって量産してみると、やはり製造直後のものはやや硬質になっているのが普通です。これも数カ月使うと馴染んできます。



・エージングの効果

具体的には当初硬質な感じがあると思います。神経質なスピーカと組み合わせた場合はひずみ感に感ずることもあると思います。

しかし、最低一週間我慢すると、かなりこなれてきます。そして三カ月ほど使えば、概ねいい音になっていると思います。あとは使うにつれジリジリよくなる感じ。

かないまるが各地でデモに使うセットは、必ず2〜3カ月前に電源を入れ始めます。デジタルアンプは、ボリウムを上げないと電源電圧があがりませんので、音を出さなくてもいいので、-3〜-4dBのボリウム位置まで上げておくのがコツです。このころはだいたい無音です。

音を使ったバーンイン(焼き上げ)はエージングと別のもので、デモ前一週間くらいからはじめます。はじめはボーカル、室内楽などからはじめ、だんだん編成を大きくしてゆきます。最後はロックをガンガン鳴らし、映画のSEでドカドカやって仕上げ。ボリウムははじめから終わりまでデモ音量です。


・ヒント

いままでのアンプを使ってきた経験から、みなさんは音が出ていないときにボリウムを絞るのではないでしょうか。

これだとTA-DA7000ESやTA-DA9000ESはエージングが進みません。音は出さなくても、通常お使いになる音量より高めにしておくのがコツです。設計的にはボリウム-4dBでエージングしています。

ひとつ実験してみてください。これから音楽を聴こうというときに、-15dBでちょうどよい音量だったとします。しばらく聴いたら、ストップボタンを押して無音にして、ボリウムを3dB上げてください。

3分待ってください。

3分たったら、3dB下げて同じ音量にして、もう一度同じところを聴いてみてください。音がよくなっているでしょう。


さて復習クイズです。

音楽鑑賞が、映画鑑賞が終わりました。ボリウムはどうしますか。絞っておきますか。そのままにしますか。

普通は絞るでしょうね。でも絞らないで聴きっぱなしにしておく、デジタルパワーアンプの場合は、これが早期にエージングを仕上げるコツです。


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