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デモ・仕事・プライベート…

かないまるお勧めのソフトたち

その1



初稿 070218
随時更新

目次を表示する

かないまるの仕事はソフトの知識なしには成り立ちませんが、「試聴用にどういうディスクを使っているんですか?」というメールを結構いただきます。ところが検索して返信を書くには結構時間がかかります。ふと気付くと複数の方のために同じソフトを何度も検索してたりします。

そこでアマゾンの提携システムを使い、常用ディスクをアマゾンの私のページにリストアップ。今ごらんのこのページの解説とリンクすることにしました。
試しに何タイトルか作ってみましたが作業は楽。これなら長続きしそうです。

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SB070422-1
---試聴用・準クラシック・SACD(CDハイブリッド)---
---[NEW] 070421/[更新]070507---



LYNX flute

バッハ、モーツアルト、ワーグナー、ドボルザークなどの名曲を
フルート4本の透明感あふれるアンサンブルで

(070526追記/ホットニュース)
このSACDを私は最近、調整やデモによく使うんですが、昨日イギリス人 (かないまるのプロダクツをWhat Hi-Fi誌やグラモフォン誌に紹介してくれる、音と音楽とソフト選びのプロです) に聴かせたところ、音がでた途端に顔色が変わり 「今後のデモで使いたのでSACDが欲しい」と言い出しました。また、クラシックの世界で最も権威ある雑誌「英グラモフォン誌」にも紹介したいと言い出しました。

このソフトの録音は、詳細解説ページ に書いたとおり、ホールトーンが左右対称ではありまん。LYNXをホールを一番よく鳴らせるステージの斜め右に立たせ、マイクをその正面に置いたからです。なのでかないまるは、この左右非対称には少なからず戸惑いました。

でも実際にはホールで真ん中の席に座るなんてことはないんですよね。サントリーホールのようにステージ下手のすぐ前の二階席が、実は一番音がいいなんてこともあるし。

ではイギリス人がどこに反応したかというと、やはり演奏がすごくいいことと、その演奏がホールを鳴らす事で輝いていること。この二点だそうです。「アメージング(驚異的)」とすら言いました。何度も何度も素晴らしい」と感動を表明しました。ちなみに演奏したのは、7曲目のバッハ最終曲と、11曲目のチャイコです。

オーケストラやクラシックに演奏のお作法があるかのように勘違いし、録音もビシーっと左右対称でないと「クラシックの録り方がわかってない」なんていいかねない日本人と、日常的に町のオーケストラに触れ、ステージが見えない席すらある (ムジークフェランザールには実際にそういう席があります)クラシック・ネイティブたちの音楽の聴き方は、実はかなり違うとかないまるは感じています。

そのクラシック・ネイティブにLYNX fluteはなんの違和感もなく受け入れられ、私はその聴き方の違いを再認識するという出来事でした。このイギリス人はかないまるより三歳年下ですが、オーディオ的にはかないまるの弟子で、音楽的には私の先生という関係。何時も一緒に欧州向けモデルを仕上げている仲です。

ところでこのイギリス人は今日25日に帰国します。SACDを聴いたのは昨日24日。ところが、SACDはすでにゲットできました。というのも、夕食に焼き肉屋さんでカルビをつついている間にセイゲンさんがディスクを持ってタクシーですっ飛んできてくださったのです。グラモフォン誌の人も、なんとちょうど来日中で品川にいて、昨夜手渡されたはずです。奇跡の品川、5月25日!。「これはなにか起こりそうだ」。予感がしました。

グラモフォン誌が扱ってくれるといいですね>LYNX。

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(以下、前からある解説)

とても素晴らしいフルートアンサンブルをご紹介しましょう。

LYNXは、芸大出身の女性演奏家4人で結成しているフルートだけのアンサンブルグループです。通常のフルート (2本) に、アルトフルート、バスフルートを加えて、華麗で美しい音色をかもしだします。そういえば彼女たちも全員華麗で美しい。

LYNXの結成は芸大在学中。つまり学生時代だそうです。室内楽の授業の課題演奏のためにカルテットを組み、卒業後そのままプロになり、今年が結成10周年。今やドイツを中心に欧州公演も行い、現地TVや新聞でも扱われる腕前に成長しました。国内でも「題名のない音学会」などのメジャーな番組に登場するほか、テレビCMなどの音源制作にも携わっています (詳しくはLYNXのホームページ にて)。

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結成10年というと、ちょうどかないまるがAVアンプ設計に携わった期間と重なりますね。ピュアオーディオの設計からAVアンプに変わったころはいろいろと戸惑いました。以来10年ずっと勉強し、最近はとても見通しよく仕事ができます。

LYNXも演奏スタイルが確立し、見通しがとてもよくなった来たようです。主に管弦楽曲をフルート用に編曲して演奏していますが、バッハの演奏では欧州でも高い評価を受けていて、昨年(2006年)の欧州演奏では、様式美と演奏解釈の新しさで欧州のバロック音楽の専門家を唸らせたそうです (まさにそのバッハが、このSACDには録音されています)。

録音とプロデュースは、サイデラレコードのオノセイゲンさん。録音方法は楽団が全員で同時に演奏して一回で収録する「一発録り」というスタイルです。

「あれ?、それって当たりでは」と思う方も多いでしょうね。でも実はそうでもありません。LYNXのようなポピュラーとクラシックの境界領域の作品は、前者の手法、つまり一人ずつ演奏し、トラックダウンで制作されることが多いのです。LYNXも昔はそういう制作だったそうです。でもそれでは息のあった演奏なんてできません。

このSACDは、秩父ミューズパーク音楽堂で2006年9月に録音されたものですが、完全にクラシック同様の同時演奏、録音も一発録りで行われました。LYNXが結成10年で育ててきた息のあったアンサンブルが、自在にホールと対話し、ホールを鳴らしきっている楽しさが見事に収録されています。

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収録曲目はバッハの管弦楽組曲 (第二番) 全7曲が中心になっています。そう、欧州の専門家を唸らせた演奏です。聴き慣れた曲が天上の音楽のように部屋中に広がります。また少ない楽器で大曲を演奏するため、緩急のつけ方や和音の構成に随所に工夫が感じられ、それが新鮮に感じます。特に終楽章 (7曲目) の美しさは息を飲むほどです。

バッハ以外では、モーツアルト、スメタナ、ドボルザーク、チャイコフスキーなどを一曲ずつ演奏して行きますが、ドボルザークの「家路」は涙が出てしまいます。心にしみるんです。

録音方法、オーディオ的な鳴らし方の詳細などは、詳細解説側ページに書きましたのでご覧ください。

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LYNX flute。お勧めの聴き方があります。朝食のとき、ぜひ小さい音量で流してみてください。リビングBGMの究極は生演奏。昔の貴族の朝食はきっとこうだったろう。そんな極上のクォリティーに、なんとも幸せな気持ちになると思います。できればマルチチャンネル再生で。

とても素敵な一枚です。是非どうぞ。

4/20にLYNXのみなさんが、かないまるの試聴室にいらっしゃいました。そのときの様子を片々雑事に画像入りでご紹介してあります。


SB070427-1
---試聴用・機器設計用・ジャズ・CD---
---070422記載 0516更新---


Don't Smoke in Bed Holly Cole Trio 輸入盤に限る


この10年。試聴用、評論家導入用に一番使ったCD。それは間違いなくこれです。デモには全く使いません。多くのオーディオマニアが持っていると考えられ耳にタコの可能性が大きいからです。でも持っていない方は、絶対に買いましょう。これほどオーディオ調整に役に立つCDはありません。

ただし、日本盤は買わないでください。同じタイトルでも、紫色で漫画調のイラストの日本盤は、どうしたものか音が全く違います。悪いとは書きませんが、別物です。お勧めは輸入盤です。

実は輸入盤自体も数年前にスタンバが新しくなったようで、音質がよくなりました。レーベル印刷の深緑が濃くなり、MADE IN HOLLANDの文字が追加で印字されるようになりました。UK経由、US経由の二つのルートで購入したことがありますが、どちらも同じものが来ました。今売っているのはおそらく3000枚ほどのショットで作ったものが小分けされているので、同じものが入手できるでしょう。

ただ、古いのが来ても大丈夫です。比べれば音は若干違いますが、日本盤から比べれば同じもの。実際かないまるの試聴室ではHolland製の表記のあるものとないものが一時混在していましたが、そのときに手にしたのを仕事に使うという使い方をしていたくらいですから (古いのは使いすぎて割れてしまい、現在はありませんが)。


さて、ホリーコールはジャズとポップの境目にいるアーティストです。正当ジャズとは少し違い、ベースもピアノもよりポップです。でもフュージョンでもありません。もっとクラシカルなジャズに近い「ベースとピアノとボーカルのトリオ」です。制作者の言葉がアマゾンのページにありますので、詳しくはそちらを読んでください。

試聴トラックとスピーカの調整法などは、詳細解説サイドをご覧いただくとわかりますが、そういうわけでこのソフト。聴かない日はないという、かないまるにとって最重要課題ソフトなのでした。

なんでも、かないまるがご紹介したら、この盤が一時的に大変に入手しにくくなったそうです。5/25現在はアマゾンが仕入れしなおしたのか即納になっているようです。また品切れになる前に入手をお勧めします。



SB070420-1
---試聴用・鑑賞用・J-POP・CD---
---[NEW]070420記載---



虹の橋
藤田恵美
アマゾンにリンクすると画像なしのページが
開きますが、注文には支障ありません

かないまるホームページが100万ヒットしたときに、記念品として藤田恵美さんのサイン入りCDをいただきましたが、その藤田恵美さんの新しいマキシシングルが発売されました。

内緒ですが、現在かないまるは、藤田恵美さんのトラックダウンの監修をお手伝いし始めていて、いろいろな意味で現在のポピュラー音楽制作の問題点も知るようになりました。この楽曲はその直前に作られたもので、かないまる的にはいろいろと思うところはあるのですが、なにしろ曲がいい。

「虹の橋」は、数多くの動物サイトに転載されている、作者不詳の物語。もともとはインディアンの伝承にさかのぼるそうですが、愛するペットを亡くした人々に希望を与える話です。

この楽曲はその話に感動した恵美さんが作詩作曲したもので、今回は日本語盤としてのリリースですが、かないまるのお気に入りは恵美さんお得意の英語でのバージョン。三曲目に収録されています。

虹の橋の物語の詳細は、詳細解説サイドをご覧ください。


SB070309-1
---デモ用・スピーカセットアップ用・クラシック・SACD---
---070309記載---


Rachmaninov: Vespers
[Hybrid SACD]
From PentaTone
(アマゾンにリンクすると画像なしのページが
開きますが、注文には支障ありません)

ほんとうに美しいアカペラのコーラスのSACDです。

オランダの録音会社ポリヒムニアのバランスエンジニアのジョンマリさんが、TA-DA9000ESの欧州でのお披露目となったドイツのハイエンドショーでデモをしてくださったのが2003年の5月。まだ完成していないセットのお守りで付いていったかないまるが、そこでマリさんと出会い意気投合したことは何度かかないまるに書いています。

このハイエンドショーのデモでジョンマリさんが使ったソフトの一つは、SB070118-2 でご紹介した児玉マリのピアノソナタ。そしてもう一枚がこのラフマニノフのベスパーです。SACDの発売が2003年5月27日になっていますので、まだ発売前のオニューのソフトでデモをしたわけですね。


ラフマニノフのベスパーは名だたる合唱隊はたいがい取り上げるほど有名なのだそうで、なるほど検索してみると沢山の録音が出ています。ただし英語圏での話。やはり教会音楽なので、日本人にはなじみは少ないといえます。日本ではオーディオ的に超有名な「カンターテドミノ」くらいしか思い浮かびません。

ただし、英語圏でもデモにはあまり使わないようです。理由は再生が難しいからです。

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人の声、それもアカペラ(無伴奏)のコーラスは、アナログアンプの天敵です。アナログアンプは出力電流による発熱により、時々刻々と高域の位相が常に変動しています。それが可聴帯域にかぶると、左右の位相が微妙にずれて、コーラス音に濁りが生じやすいのです。

その点デジタルアンプS-Master PROは出力電流による発熱がほとんどない上、あっても位相の回転は起こりません。

ジョンマリさんはTA-DA9000ESの音に欧州で最初に感動した人ですが、理由は、予価数千ポンドにすぎない民生用AVアンプから、自分がスタジオで使っている大型アンプ並に濁りのないコーラスがいとも簡単に流れだしたからなのです。

したがって、デジタルアンプTA-DA9000ES、7000ES、9100ES をお持ちの方は、このSACDから感動的なコーラスを聞き取ることができるでしょう。

アナログアンプをお使いの方は、その実力がよく出る録音と言えます。アナログアンプであっても、TA-DA3200ESは高域の位相回転に対策をしてありますので濁りはほとんど感じられないと思います。もし感じられたら、それはスピーカやプレーヤを見直すべきでしょう。

TA-DA3200ES以外のアナログアンプは、実力どおりの音が出るでしょう。TA-DA3200ES以外では、私が手がけたアンプでは、STR-DB790 (デジタルアンプ直前のモデル) や TAN9000ES (パワーアンプ)が良好だと思いますが、それ以外のモデルでも破綻はしないと思います。

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このSACDの聴きどころは、TNO-6 Bogoroditse Devo です。非常に小さい音で始まる最初のところは、ピークから30dB近く低い音量になっていて、教会の低い音のノイズが現場の空気を感じさせます。

静かに始まったコーラスから、すぐに聖歌隊がいる階段状の雛壇がイメージできると思います。パートごとに高さが違い、また左右に人が広がりますが、その一人一人が指させるようにフォーカスします。というかそういう録音なので、フォーカスしないといけません。

トラックの後半、コーラスはどんどん盛り上がり、最大音量まで吹き上がります。このとき音が天井を打たないことが大切。デジタルアンプなら問題なく吹き上がります。TA-DA3200ESもOKです。このへんも、扱うパワーにより位相が変動しないことが肝心なので、濁りのないアンプなら吹き上がりもスカっと抜けると思います。

なお、録音されたオランダの教会は円形ドームをもつ建物ですが、その中央が煙突状にさらに高くなっているそうです。エルドさんが試聴室にみえたときに「それがわかるね」とおっしゃっていましたが、私は現場を知らないのではっきりとはわかりません。ただ、頭の真上だけ残響の音色が違うような感じはします。会社ではわかるが、かないまるの自宅のシステムでは無理という難しい課題ですが、システムの実力を知るにはいい課題だと思います。

この録音は、バランスエンジニアとしては非常に珍しいことに、ジョンマリさんとエルドさんの二人の名前がクレジットされています。コーラスは再生も難しいが、録音も難しいということなんでしょうね。



SB070303-2
---試聴用・デモ用・クラシック・SACD---
---070302記載---


Russian Violin Concertos
Khachaturian / Prokofiev / Glazunov
Julia Fischer

エルドさんが来日したときに、もう一枚念入りに聴いていたのがこのユリア・フィッシャーのバイオリンコンチェルトです。

ユリア・フィッシャーといっても日本ではマイナーなのでご存じでない方がほとんどだと思いますが、バイオリンの腕前はかなりよく、欧州ではヒラリーハーンに負けないファンがついているそうです。

しかも可愛い。クラシックのジャケットなので年増顔に写っていますが、実際のユリア・フィッシャーは愛くるしい小柄なお嬢さんです。

実はかないまるがジョンマリさんにTA-DA9000ESをプレゼントしたときに、ジョンマリさんはポリヒムニアのスタジオにかないまるを招待してくださいましたが、さらに録音の現場も見せてくれました。

そのときは、アムステルダムの証券取引所ホールでのユリア・フィッシャーさんのバイオリンコンチェルトの録音でした (この推薦盤とは違う録音です)。録音なので観客はいませんし、楽団員はみなさん普段着。ユリア・フィッシャーさんもGパン姿でした。でもホールは空なので残響が長いしノイズもありません。

さて、録音が始まり楽団員が前奏を奏でます。なんといい音。そしてバイオリンパートが始まる寸前にユリア・フィッシャーさんは、通常は指揮者が居る位置にすっくと立ち、バイオリンに弓を当て、すいっと弾き始めました。う〜ん。素晴らしい。腕前もいいんですが、楽器もまたいい。

なんでも録音のときは、ストラディバリ財団から一丁何億円という楽器を百万円前後も支払って借りてくるんだそうです。どうりでバックのバイオリンとひときわ音色が違うわけです。ソリストがひときわ輝きます。いいなあ、一流は。

この時の録音はジョンマリさんがバランスエンジニアで、ホール内の音が直接届かない物置部屋にスピーカを配置した仮設の調整室でバランスをとりました。

録音の様子をみていると、プロデューサさんとバランスエンジニアのジョンマリさんがペアで仕事をするようですが、スゴイなと思ったのは、二人の前にはそれぞれ楽譜があり、演奏にミスがあると二人の手が同時に楽譜に延び、鉛筆でチェックが入ることです。クラシックの録音をする一流の録音エンジニアは、当たり前のように楽譜が読めると聞いたことがありますが、現実に目の当たりにして、わースゴイと思いました。

ちなみに失敗した箇所をどうするかは聞くのを忘れましたが、演奏しなおして差し替えるのだと思います。

ひとしきり録音が安定してくると、ジョンマリさんはかないまるを自分のすぐ後ろに呼び寄せて、2チャンネルと5チャンネルを同時に録音していることや、2チャンネル録音の方は補助マイクの音を混ぜて、表現力不足を補っていることなどを説明してくれながら、2チャンネルと5チャンネルを切り換えながら音を聴かせてくれました。5チャンネルは基本的にマイク5本だけで補助マイクは使わないそうです。

かないまるはその場で説明を聞きながら音を聴いていましたが、あとで考えるとこれがものすごい勉強になっていました。

さて、第一楽章の録音が終わると、ユリア・フィッシャーさんがすっ飛んできてジョンマリさんが座っていた中央の席に座り「聴かせて」とひとこと。たった今録った録音がプレイバックされ、音が出始めると、あどけなさが残る顔から笑顔が消え、真剣な顔で録音をチェックしているのが印象的でした。

ユリア・フィッシャーは、どちらかというと、まだマイナーな演奏家です。でもペンタトーンレーベルの看板演奏者で、録音も非常に良いことからファンが確実に増えています。少なくとも日本の評論家はほとんどの人が知っているでしょう。

ここにお勧めする一枚は、ハチャトリアンなどロシアの作曲家が書いたコンチェルトを集めたもので、試聴用には複数のトラックを使いますが、デモで常用するのは第3トラックです。

ジャンジャカジャンと始まる派手な前奏。ポリヒムニア録音らしいステージの表現がまずスゴイ。5チャンネルが2チャンネルを超えるのは、何といってもステージ方向の精密で見えるかのような表現力ですが、この録音もまずそれが明瞭に楽しめます。

また別にご紹介しているポポフの盤より鮮明な反射音のあるホールなので、ステージから放射された音がホールの壁に反射してくるのが手にとるようにわかります。若干明るい音色の楽器が集まっていますので、再生システムが硬質になっていないかのチェックにもいいでしょう。録音が明瞭なので、システムに硬さがなければ、音数がすごく多くなります。

逆に分離が悪いシステムではステージが見えません。かないまるはセットのチーニングの初期にこの盤を多用します。この盤でステージ上の楽器が分離することが、スタート時点の代表的課題だからです。

そしてバイオリンパートが始まると、バイオリンはセンタースピーカのやや上方にふわりと浮かびます。演奏は違うものですが、録音を見せていただいたときとマイクアレンジは全く同じなのでしょう。高さ感はかないまるが見てきたのと全く同じ。つまりステージは完全に再現されるのです。

ステージが見えるように再現され、さらに空中にバイオリンが浮かぶ。そういう再生ができるか。この一枚で是非挑戦してみてください。


SB070303-1
---試聴用・クラシック・SACD---
---070303記載---


J.S. Bach
Sonatas and Partitas for Solo Violin
Julia Fischer

「バイオリンのソロをマルチチャンネルで再生してみましょう」。みなさんはどんな再生音を想像するでしょう。

これまでご紹介してきた録音のように、ステージ上に楽器が見えるように展開するわけではありません。ピアノとちがい、楽器もコンパクトで、鍵盤の前後関係がわかるというようなビジュアル的ともいえる面白さもあまりありません。

ではホール一杯にひろがるエコーでしょうか。まさにサラウンド?。

ぶぶー。そんなことはありません。演奏の音よりエコーが目立つなんてことは、実際の演奏ではありません。録音再生でもしてはいけません。初期のマルチチャンネルの代表的な失敗は、現実よりホールトーンが多く聴こえるという録音です。これがいかにマルチチャンネルを「要らない」と言わせてしまったか、悪影響は小さくなかったといえるでしょう。

では何が2チャンネルと違うのでしょう。

それはやはり実体感につきます。

バイオリンという小さな楽器は、演奏者が反ったり屈んだりしながら楽器を動かすことで、楽器は直径50センチくらいの範囲内で発音点が動きます。たとえば演奏者が弓を弦に当てて弾き始め、背中をそらせながら弾き上げると、音源位置は上へ、後ろへと動きます。同時に楽器の向きが変わり、音色が千変万化し、それに呼応してホールからの返る音が生き物のように変わるのです。

そして、その反射音群に助けられることにより、音源としてのバイオリンの姿の再現力も、マルチチャンネルは2チャンネルよりはるかに優れています(それも、フロント2チャンネルに小型のサラウンドスピーカを一組追加するだけの簡単なシカケで、この別世界に接することができるのです)。

2チャンネル再生では、主に横方向の移動が鮮明。高さ方向は録音次第。でも奥行き方向や楽器の向きをつかめるかというと、それは不鮮明だったといえます。

しかしマルチチャンネルでは、複雑な壁反射群を再現できるため、もともと2チャンネルでも成立していた横方向の動きに加えて、前後方向 (深さ方向)の動きや、楽器の回転方向の動き (つまり向き) が精密にとらえられ、そして再現されます。

結局、キチンと調整されたマルチチャンネル再生では、ソロバイオリンは空中に浮かび、そして動くことで、演奏者の体さえも見えてきそうなほどの実在感を表出します。

こうしたオーディオ的な (SACDならではの)アドバンテージが伝えるユリア・フィッシャーのバッハの無伴奏は息をのむほど美しい。

ユリア・フィッシャーは普段はドイツやオランダを中心に演奏活動をしているそうですが、とても人気があり、アンコールではよく無伴奏を弾くそうです。このSACD(CDハイブリッド)は、彼女の魅力をいかんなく収録しきった素晴らしい演奏と素晴らしい録音の名盤で、オーディオ評論家が落ちる(^^;)のを、かないまるは何人か目の当たりにしています。

マルチチャンネルもソロバイオリンを再生して実体感が出るようになればホンモノです。眼前にバイオリンが浮かび、生身の人間の演奏が感じられるか。

サラウンドスピーカは安くても結構です。でもセッティングは、反射音がステージ上の主役の動きがわかることを助けるようにセッティングされるべきです。この盤を聴きながら、演奏のリアリティーを良くしようと追い込んで行くと、サラウンドの役割というもがよく分かると思います

お試しください。


SB070222-1
---試聴用・デモに常用・クラシック・SACD---
---070222記載---


Popov - Symphony No 1
Shostakovich Theme and Variations

一昨年から去年にかけて、児玉麻里のベートーベンのビアノソナタ以外で一番多くデモに使ったソフトが、このポポフの交響曲一番です。みなさん感動されるのか、終了後「タイトルを教えてください」という質問が多いですし、ロックが好きな人が聴いて楽しいクラシックだという話もあります。

すでに推薦した児玉麻里のピアノソナタを録音したのは、オランダのポリヒムニアという音源制作会社。バランスエンジニアはジョンマリさんです。品川の私の試聴室にいらっしゃったことがあり、自分のスタジオ以外に全く同じ音場を再現する場所があることに驚かれていらっしゃいました。

その後ジョンマリさんから、同僚のエルドさんに品川の音を聴かせて欲しいと頼まれました。エルドさんはジョンマリさんと並ぶ人気のバランスエンジニアさんです (欧州では、録音技師であるバランスエンジニアの名が知れ渡り、レコードの売り上げに直接影響力があります)。またエルドさんはポリヒムニアの役員さんでもあります。

エルドさんは2004年にサントリーホールに録音のために来日したのですが、ジョンマリさんの勧めで品川を訪れてくださいました。

さっそうと現れた長身のエルドさんがカバンから出したSACDは約20枚。「全部聴きたい」。うそでしょう(^_^;)

でも実際は数枚しか聴きませんでした。なぜかというと、持ってきたのは全部自分で録音したSACDなんですが、ランダムにかけはじめたものの、このポポフの盤を一度かけると、そのあとは何度も何度も同じ盤を繰り返し聴き始めたからです。「もう一度聴いていいですか」そういいながら何度も再生しました。

品川は自分のオランダのスタジオでは出せない音が出るし、実はスケール感も随分大きいのです。かないまるはかないまるでポリヒムニアの音に感動しましたが、エルドさんもちょうど逆の感じで、自分で録音した楽曲が違う表情で鳴るのが驚きだったそうです。そして繰り返し再生するたびになにか発見があるようで、気付けば30分以上も同じ盤の同じ箇所を再生し続けていました。

実はこの時に再生に使ったアンプはTA-DA7000ESです。ポリヒムニアにはTA-DA9000ESをかないまるからプレゼントしてあり、かないまるもポリヒムニアにご招待いただき一緒に聴いて彼らのスタジオの音の素晴らしさに感動しました。エルドさんが品川を訪れたのはそのあとで、エルドさんは実は32ビットバージョンになったS-Master PROの音に驚かれたのかもしれません。

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ポポフはショスタコーヴィチと同時期にソ連で活躍した作曲家です。生涯に6曲の交響曲を作曲したそうですが、このSACDの楽曲は30歳 (1934年) のときに完成した第1交響曲です。ショスタコと比べると悲運だったようで、かないまるはこの盤と出合うまでポポフという作曲者の名前すら知りませんでした。

ひとことで言うと「エネルギー」に満ちた曲。第一楽章の冒頭をデモで使いますが、なによりその楽曲の活気と迫力が聴く人を圧倒します。

そして録音がいい。ポリヒムニアはペンタトーンレーベルへの音源提供が中心ですが、この録音はテラークという大手レーベルへの音源提供。楽団がいつもよりりメジャー ( ボツスタイン指揮&ロンドン響) で、おそらく楽器もいいのが集まっているのでしょう。音色が異例によい。そして演奏もすごくてものすごい迫力があります。

そして「さすがポリヒムニア!」と思わせる見えるかのようなステージ感

最前列にバイオリン。チェロなどの弦楽器。その後ろ、やや高い一に木管、金管。ぐっと後ろのさらに高い位置にティンパニーや大太鼓などのパーカッション。シンバルとバイオリンには5メートル以上の距離差が聴きとれます。奥行き、高さともに異例によいフォーカス感。

もちろんホールトーン(こちら側のサラウンド)もたっぷり録れているんですが、そう感じさせないほどホールトーンは自然。ホールトーンはあっても目立たない。クラシックはステージが主役。それを再確認させてくれるスゴイ録音。

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「大編成でなにか一枚推薦してください」と言われれば、躊躇なくこのポポフですね。買って後悔のない一枚だと思います。

そして、もしこの盤でステージがみえなかったら…、再生環境を根本的に考え直した方がいいでしょう。そう断言できる作品だと思います。システムの診断用にもお勧めできる一枚です。

ご注意。
この推薦盤はSACD/CDハイブリッド盤です。同じ録音、同じジャケット写真でCDオンリーの盤もあるようですので、レコード屋さんで手にとった方は、買う前に注意してください。


SB070118-5
---試聴用・JPOP・CD---
---070218記載---


藤田恵美 カモミールクラシックス

かないまる100万ヒットプレゼントに所属会社のソルシエロさんにサイン入りで提供していただいたかないまるお気に入りの一枚です (そういえば私のはサインが無い…)。デモ用ではなくて、主に試聴用に使っていますが、癒し系のCDなので、空き時間にふとかけていることの多い一枚です。

ちなみにかないまるは、セットのチューニングに必ずJPOPと演歌を混ぜています。慣れていない部品メーカさんだと、部品の評価中にいきなりモー娘。だの森高だのをかけるのでびっくりされることが多いですが、JPOPはJPOP特有の音があり、十分に聴いて対応しておくためです。

でも嫌いな楽曲をわざわざかけることはしません。試聴室にあるのは、うっかりすると聴き込んでしまうようなモノばかりです。演歌なんてうっかりすると歌ってたりするし…(演歌は何を使っているか内緒)。

藤田恵美さんは、元ル・クプルのボーカルで、現在は単独で活動中。録音はスタジオに一同に会して行うそうで (つまり同録)、歌を歌うこと、音楽をすることを大切にしていることが、このCDの完成につながっていると思います。


SB070118-4
---試聴用・JPOP・CD---
---070218記載---


藤田恵美 camomile Blend

SB070118-3

藤田恵美 カモミール

カモミールシリーズは、実は三部作で、一枚目が「カモミール」二枚目が「chamomile blend」。一枚目はアナログ録音で、二枚目がデジタル録音で、それらしい差はたしかにあります。でも三作通じて同じなのは、そのやさしい癒しの歌声と録音の良さでしょう。

実は藤田恵美さんは香港や台湾、シンガポールで大ブレーク中。音がいいとオーディオマニアが騒ぎだしたのがその理由の一端だそうです。実際香港では、かないまるもでたことがあるオーディオ誌にコンサート情報が出るほど。でもそれだけで大ブレークするということはないですね。訴えるものがないとヒットはしないと思います。

特に2枚目の camomile Blend (SB070118-4) はお勧めの一枚です。


SB070118-2
---デモ用・セットアップ用・クラシック・SACD(マルチ)---
---070218記載---


Beethoven: Piano Sonatas
Nos. 21, 23, 26 [Hybrid SACD]
From Pentatone

このピアノソナタは、サラウンド勉強会で教材としてご紹介したソフトです。2チャンネルとマルチチャンネルの違いのデモによく使います。それも「こっち側のサラウンド」ではなくて、「フロントの向こう側を表現できるマルチチャンネル」のデモにです。

2006年の6月に日本経済新聞の取材を受けたときにもデモしてさしあげましたが、7月8日に記事になり、記者の驚きがこんなふうに書かれています。

「まさかとは思ったが、本当に目の前でピアニストが弾いているような錯覚に陥った。フロントスピーカの奥から、鍵盤一つ一つ、弦の一本一本の位置がわかるほどリアルなのだ」

と書かれても、実は2チャンネルでもありそうな感想文ですね(^_^;)。でも実際には2チャンネルのできる表現とはまるで別物です。「こっち側のサラウンド」は実は2チャンネルでもできるんです。でも「フロントの向こう側」はマルチチャンネルでないとできません。

マルチチャンネルがキチンとセットアップされ、よい録音と出合うと、スピーカの後ろに大きなステージがキチンとした深さで現れ、そこにグラウンドピアノが正確な大きさで置いてあるまま感じ取れます。それもピアノの鍵盤が左スピーカの少し内側の延長上に、前後に2mに渡って横たわり、高域の鍵盤が近くに、低域の鍵盤が遠くに聴こえるのです。

さらにその奥にはステージの壁があり、その壁を起点にグワーっとエアが広がり、こちら側のホール空間に音をはきだしているイメージもつかめます。もちろんホールの壁の一部に反射した音は、その音の来る位置が明確にフォーカスしていて、それはそれでマルチチャンネルらしさですが、クラシックではそんなのはどうでもいいことです。大切なのはステージ。それを一台のピアノで見事に表現しきるのがこのソフトです。

かないまるのデモトラックはトラック3 (Piano Sonatas Nos. 21の第三楽章) です。録音したのはオランダの録音会社ポリヒムニア (旧ドイツフィリップス) のジョンマリさんです。彼もオーディオメーカの依頼でデモをよくやるそうですが 、ソニードイツがTA-DA9000ESのデモを依頼したことがあり、かないまるはセットのお守りに付いて言ってジョンマリさんと意気投合しました。スピーカのセッティング方法が全く同じだったのです (そういえば米ウィルソンも全く同じでした)。このトラックはジョンマリさんが使っていたトラックで、やはりここぞというトラックだと思います。

このトラックを使って2チャンネルとの比較デモをCD2チャンネル→SACD2チャンネル→SACDマルチの順でしてさしあげると、大概の方は2チャンネル同士のCDとSACDの差は、まあ私にはどうでもいいかという顔をされます (特に業界人でない人)。しかしマルチでピアノがフッと実物のように浮かび上がると、ほとんどのかたが「欲しい」とおっしゃいます。

マルチこそが音楽再生を変える、新しくするという衝撃を多くの人に与える好録音、高演奏。そんな一枚です。


SB070118-1
---デモ用・試聴用・クラシック・SACD(マルチ)---
---070218記載---

Poulenc Concerto For Organ
Gillian Weir/English Chamber Orchestra
David Hill/Raymond Leppard


最近、PS3のSACD (176.4kHzでHDMIアウト、TA-DA3200ESで再生、PS3ソフトバージョンは1.3または1.5) のデモに多用している、プーランクのオルガン・コンチェルトです。

祭壇に向かってオルガンが背後にあるのは教会の普通の姿ですが、聖歌隊が立つ正面の祭壇側にオーケストラを配しての録音。オーケストラとパイプオルガンの荘厳な再生音が楽しめます。

特筆すべきはその演奏の良さで、オーケストラからオルガンへ、オルガンからオーケストラへと音が引き継がれるとき、その自然で音楽的なやりとりには、ふうっと息を飲むようです。

オーケストラのステージの距離感は、やはりSACDマルチならではで、チェロが中段、コンバスがその後ろにいて、チェロの玄弾きとコンバスのピチカートが同時に鳴る瞬間は、これが再生オーディオかと耳を疑うほどです。

加えてパイプオルガンは、こちら側のサラウンドをこれでもかと鳴らしきります。パイプに空気を送りこむ弁の開閉打音 (ストップ音というそうです) がパイプの音の頭に「トーン、トーン」の乗って、それが教会の天井までひろがります。

あるマルチチャンネルに明るい録音エンジニアさんは、「金井さんすごいねえ。これで教会の大きさが分かってしまう」とつぶやきました。ストップ音はHDMIケーブルがよくないとそれだけで消えてしまいます。いまのところちゃんと聴こえるのはPS3だけです。普通だと再生音ではまず聴こえない音の洪水がこのソフトです。

じつはこの録音は、リンのスピーカエンジニアで録音技師でもあるフィリップ・ホッブスさんが録ったもの。もちろんPCMではなくてDSD録音です。リンレコードの最初のマルチチャンネル録音だっということで、この完成度かよ〜、と驚きですが、ペンタトーンレーベル同様、弦楽器より奥に木管楽器がいて、さらに深くて高い位置でティンパニーが連打。つまりステージ側の奥行き感がキチンと録れています。

もちろんオルガンはフル音量でなりますので小型のスピーカには厳しいですが、かないまるの試聴室では9.1チャンネルで鳴らすことで、小型のスピーカでも十分な音圧を稼いでいます。

さらにもう一つのびっくりが、このソフトのプロデュースが実はソニーだということです。デビッドワルストラさんという、ソニーのSACD戦略部 (今はない組織です) に居た人が仕掛け人だったんです。

実はワルストラさんは三月から欧州でPS3の導入をすることになりました。そこで、PS3の音がいかにすごいかを、この1月にかないまるの試聴室に聴きに来たのです。私はこのソフトが彼のプロデュースであることを知らずにかけました。

で、音が出た瞬間に彼の口から出てきた言葉は「このソフト、私がプロデュースしたんです。でも、こんな音は聴いたことがありません。PS3のコンピューティングパワーはすごいんですね」でした。本当にびっくりしたようですし、欧州で同じ音を出すつもりのようです。かないまるチューンに必用な部品を全部欲しいと言って持って行きましたから。

結構有名なソフトですが、スゴすぎて再生しにくいことでも有名な一枚。PS3なら感動できますよ。


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