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かないまるお勧めのソフトたち

NHKエンタープライズ
高音質BDシリーズ

開始 090919 (旧ページから引っ越ししてスタート)
随時更新
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小澤の悲愴にはじまった、NHKクラシカル (制作はNHKエンタープライズ) の高音質BDシリーズ。三作目のコンセルトヘボウ演奏会の推薦を機に、このシリーズ専用ページを作ることにしました。今後リリースされるごとに、随時紹介して行きますのでお楽しみに。



SB100605-1
---試聴・デモ用・好演奏・好録音・音楽BD-BOX・特選---
---100605


ブラームス「交響曲 第2番」
&ショスタコーヴィチ「革命」
~小澤征爾 サイトウ・キネン・オーケストラ~


NHKクラシカルから、「ブラームスの2番+ショスタコービッチの革命」のBDが発売されます。6月25日発売予定。
プルーフ盤をきかせていただきましたが、素晴らしい作品。ご紹介しましょう。

まずブラームスですが、音数が多く演奏がいきいきとしていて感動してしまいました。

演奏 (録音?) はとてもクリアで甘美。演奏がとてもていねいなためか、最初はすっきりしすぎた音に聴こえるほどです。でもすこし聴き込むと、実は背景の楽器が表の旋律楽器を邪魔しないように丁寧にサポートしている感じが聴こえてきて、さらに聴き込んで行くと、いつのまにか実に多くの音が聴こえてきます。第3楽章に達した時点では、もう音の洪水のようです。

テクニカルには若干ステージにマイクが近い印象です。つまり鮮明な音。この音は、実は鮮明なハイビジョン映像とのマッチングを考え抜いた上での最新のマイキングであるとかないまるには感じられます。それは、同じ盤に収録されている、たった3年前の2009年のショスタコービッチの革命と聴き比べればすぐに分かることです。

革命は、音だけで聴けば、近年のあらゆるCD作品より主張のあるバランスだとかないまるは思います。あざとさのない、ウエルバランスな音。それは音だけの作品なら、かないまるはもろてをあげて賛同するでしょうし、もちろん映像と組みになる録音作品としても、非常に素晴らしいという評価をだせる作品の一つです。

しかし、画面が演奏者のアップになったときの実在感という観点で2009年のブラームスと2006年のショスタコを比べると、それは全然別の風情があるという感想を述べざるを得ないでしょう。

ブラームスは遠景でもアップでも、ともに演奏を良く伝えます。遠近感を超えてマッチする音がそこにはついています。

しかしショスタコは、遠景では画面とよくマッチしますが、画面がアップになるとマッチしません。音が遠いんです。この三年で、NHKの録音が、このアップのときのリアリティーを獲得するのにどれほど苦労したか。かないまるはその努力をどうしても感じてしまうんです。

そういうわけで、この盤のブラームスは、いままでの小澤さんの盤より明快にも聴こえます。にもかかわらずステージを蹴るボーンという音の位相差がよく耳に聴こえ、フロントマイクとサラウンドのマイクの位置関係が絶妙な領域に来ているのかなと思いました。なによりオープニングの拍手は会場の大きさをよく伝えます。でもステージの音もリアルにとらえてくれるのです。

ブラームスのハイライトは第3楽章でしょう。楽音とホールトーンが高度に融合し、ほんとうに甘美な響きが聴けます。

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〔特典映像〕は、その第3楽章が、もう二つ入っています。二つとも固定カメラ映像。これがとても面白い。

一つはオーケストラビュー。オーケストラ全体を撮影した固定カメラの映像です。ホールでコンサートを鑑賞している感じにても近い。テレビ画像で見てもそれは感じますが、プロジェクタで大きな画面で見ると、すごく落ち着きます。音は本編と同じものがついているそうですが、まるで別の編集かと思うほど落ち着いた音に聴こえます。

これってたぶん「ピュアAV」なんでしょうね。カット割りがパンパンと切り替わる普通の映像に私たちは慣れてはいますが、固定カメラ映像は本来の (クラシックの)、ホールでの音楽体験に近いものです。なのできっと落ち着くのでしょう。

とにかく、こんなことで音楽がゆったり聴けることに心のそこから考えさせられます。これは、クラシックの演奏が、本来こういうものなのだということなのでしょう。生のホール体験が少ない人には、この感覚は分かってもらえないかもしれませんが。

もう一つの映像は、小澤さんの指揮している姿を固定カメラで納めたものです。音は左右が入れ換えてあります。このビューはかないまるはちょっと落ち着きませんでした。小澤さんの目線が鋭すぎて、これは観客がみるものではないと思いました。資料的にはおもしろいですが、かないまるは数分で離脱しました。

というわけで、特典映像は第3楽章だけですが興味深いもの。今後のリリースには、オーケストラビューは全楽章に欲しいと思いました。つまり特典映像というのではなくて、「本編のマルチビュー」設定とかで実現できたらいいですね。

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もう一曲のショスタコービッチの革命。好きな楽曲なのでこれも楽しめました。こちらは大好きな第二楽章が、かないまる的にはハイライトです。

もちろん上記のように画面がアップになったときの絵と音のマッチングについては、最新録音に軍配が上がりますが、オーディオ的に聴くなら (つまりひとまず映像を離れて聴くなら)、この録音は確固たる美しさを備えていて、近年の補助マイク群にサポートされたあざといばかりのCD録音の聴こえ方が、実はスゴク嘘っぽいんではないかと確信させるという点で、録音制作の世界に一石を投じるのではないでしょうか。

そうそう、ショスタコとプラームスは、是非画質の違いにも注目してください。三年の違いは画質的にも大きいですよ。その差が鮮明であるほど、映像の表現力に余裕があるということになるでしょう。画質のチェック用にも、ある意味重要なソフトです。




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---試聴・デモ用・好演奏・好録音・音楽BD-BOX・特選---
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小澤征爾75th Anniversary ブルーレイBOX

上記ブラームスを含む、小沢征爾生誕75周年記念BD-BOXが発売されます。4枚のBDと特典ディスクの合計5枚で構成されます。

当初はブラームスの単品BDと同時発売と聞いていましたが、アマゾンのリリースデイトは現在のところ8月27日発売となっています。延びたのかな?。

内容です。

音はブラームスしか聴いていませんので、他の楽曲も聴けたらご紹介します。



BD-BOXの各アルバムは、分売もするようです。ブラームスは6/25発売。その他のアルバムの現在分かっている販売情報は下記の通りです。



小澤征爾 ボストン交響楽団
マーラー「交響曲 第9番」
 ベートーベン「交響曲 第7番」



ヤナーチェク 歌劇 「利口な女狐の物語」
小澤征爾
サイトウ・キネン・オーケストラ



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---試聴・デモ用予定・好演奏・好録音・音楽BD・超特選---
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ハイティンク指揮
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団+ペライア(ピアノ)
シューマン・ピアノコンチェルト
ブルックナー交響曲第9番



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今年3月8日午後9時から、オランダから生中継がありました。世界の名ホール、アムステルダムコンセルトヘボウでの演奏会。コンセルトヘボウに何度も足を運んだかないまるには、聴き覚えのあるホールの音があふれるようで、もう涙の出るようなプレゼントでした。

そのときの演奏がいよいよBDになります。シルバーウィーク直前の9/19に「プルーフ盤 (印刷が入っていないだけで商品と同じ音質のテストプレスBD)」が到着したので、早速自宅で試聴しました。

いやー、驚きました。音がいい!。放送の録画は役割を終えましたね。放送で音質に疑問を感じていた方も安心してください。別物です

今回の録音は、あの「児玉マリ」を録ったジョンマリさんと「ポポフ」を録ったエルドさんがチームを組み、NHKの生放送のために収録をしました。生放送でもその音の片鱗は伝わってきていて、空間の録り方はよくわかりました。このホール独特のオケの浮遊感がよくとってあるなあという印象。演奏もよかった。しかし絶対的な音質自体はそんなに高くはありませんでした。なので特にブルックナーのほうの良さがもう一つ伝わってきませんでした。

まあ音質がいまいちだったのはしょうがないですね。生中継では音声の中継に「ドルビーE」という一種のロッシー圧縮を使っていたそうです。しかも放送時はそれを一旦アナログに戻して、解説などの音声とミックス後AACで圧縮。だから相当劣化していたわけです。

前回の長岡記念オーケストラも放送とBDの差はありましたが、今回はそんなものではありません。ギャップが無茶苦茶大きいのです。今回のBDの音質は、本当に夢のようにいいです

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実は放送の録画が寝室のBDレコーダに残っていましたので、まずはHDDからそれを再生して比較してみました。使ったレコーダはBDR-X90です。

まずBDを再生しましたが、寝室用の2.1チャンネルの小さなシステムから仰天するほどリッチな音が出てきました。かないまるはコンセルトヘボウには何度も通ったので音をよく知っていますが、2.1チャンネルのチープなシステムからコンセルトヘボウのあの柔らかいたっぷりした独特の空間があふれるように出できてまずびっくり。

これに対して、放送の録画を再生してみると 「うっ、なんにもない」。比較したせいですね。スカスカで音楽になってない。あんなにいいと思っていた放送ですが、もはや残しておく価値がなくなってしまいました。寝室で十分びっくりしてからリビングに場所を変えてちゃんと聴きましたが、いやー、すごいすごい。

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曲目はシューマンのピアノコンチェルト(ピアノは復帰したペライヤ)と、ブルックナーの9番のカップリング。曲名だけ聞くと気乗りがしないでしょうか。でも聴きはじめてしまえば絶対に「通し」でかけてしまいますよ。しかも愛聴盤になり、ハードローテーション必至です。

指揮はハイティンク。第4代のコンセルトヘボウ常任指揮者ですね (現在は第6代のマリス・ヤンソンス)。久しぶりにハイティンク+コンセルトヘボウの音を聴きましたが、いやー、ハイティンクですねえ。漂うような音が波動のように柔らかく押し寄せる音は、実はこの人独特のものだと思います。

まずペライヤのPコンですが、これはもう神ががっていました。音が冴え、ぐいぐいと協奏して行く姿は、一時弾けなかったのがウソのよう。放送のときかないまるは涙が出ましたが、再びぐっとこみ上げてしまいました。

ブルックナーは未完の9番。第4楽章のフィナーレがなく、アダージョで終わってしまいますのでとても重厚な (言い換えれば地味な) 印象になりやすい曲ですが、今回の演奏は印象的です。ホール、演奏、指揮、録音、の4拍子が揃うとこういう奇跡が起こるのかという感じ。音楽の起伏が何度も何度も押し寄せ、三楽章を一気に聴かせてくれます。

一カ所だけ推薦しろということなら、第二楽章をお勧めしておきましょう。静かに始まり、ホールトーンとピチカートが細かい表情を織りなす導入から、一転して全楽器がフォルテ。ティンパニーが連打され、強演が一気に爆発します。

でもそれが厳しくない。音は洪水のように押し寄せますが、ボリウムに手が行こうとはきっとしないでしょう。気持ちよく音を浴びたまま固まるに相違ありません。かないまるは固まってしまいました。

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オーディオ的には、ブルックナーがはじまる前のホール内のノイズとチューニング音がルームアコースティックの調整にとても役にたつでしょう。

ホール内に広がるノイズは濃密で柔らかく、疎な部分はありません。もしリスニングルームが連続的に柔らかいノイズにくるまれたら、マルチチャンネルシステムのレベルは相当に高いといえます。そういうふうに録れています。

まあ、真後ろはいいとしても、前から斜め後ろまでの範囲で、どこか一カ所でも音がない場所があったら必至に改善してください。

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NKHクラシカルの音楽BDシリーズ第3作。今までの小澤作品の延長線上には全くありません。欧州を、いや世界を代表するオランダの名ホールで、オランダの名オーケストラ (団員は世界中から集まっていますが) が、小澤とは違った意味で円熟したオランダ人の指揮者と織りなした音を、やはりオランダの名録音会社であるポリヒムニアが集音した作品です。

実際、BDの音源はポリヒムニアで96kHz24ビットのマスターを作り、それを無加工でオーサリングに投入したそうです。映像も記録されたカメラの映像に楽曲名(楽章名)などのの文字を載せただけで、画質は原画質のまま編集しBDに圧縮したそうです。なので画質もとても鮮度感が高い仕上がり。やはり放送とは大差があります。

新たな奇跡の名盤が10月25日にリリースされるのです予約はこちらからどうぞ。
(上記のように発売日は11月27日に変更になりました)



SB090517-1
---試聴盤・高音質・音楽BD・超特選---
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「幻想」&「巨人」
小澤征爾・サイトウ・キネン・オーケストラ
[Blu-ray]

お待ちかね、NHKエンタープライズのBD作品。小澤の「幻想+巨人」がリリースされます。

昨年の音楽系「試聴用BD」といえば小澤の「悲愴」。何回聴きましたかね。

なにしろ音質がいいぶん、難しいところは非常に難しい。大太鼓なんか叩く毎に音がちがうので、アンプはそれを描きわけなくてはいけない。叩くバチを換えるのが映像で見えているので、音色がちがって当り前。でもそれってなかなかできません。ピュアオーディオ時代は映像がないので、それこそそんな描き分けはまずやりません。AVアンプはだから意外に音がいいんです。

そして、どど〜んと来たときは、それに負けないでスピーカをドライブしなくてはなりません。これも映画で必要な資質。いやあ、悲愴に鍛えられたおかげで、音楽再生能力はいいし、映画も同時によくなりました。


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さて、一作目が売れたので、商品企画の展望が開けてきたとか。売れ行きを心配していた上層部もおっけー状態だそうです。というわけで、いよいよ二作目の登場です

「悲愴」と同じくNHKエンタープライズの小林悟朗さんの制作で、小澤指揮、サイトウ・キネン・オーケストラの演奏。「ベルリオーズの幻想とマーラーの巨人」のカップリングのBD。どちらの演奏も毎年、夏に開催されるサイトウ・キネン・フェスティバル松本での演奏。

いやー、いいですねえ。第一印象は「とにかく音がいい」。細かいホールトーンがまずリッチ。演奏もすごくよく、その演奏が迫真の音で伝わってきます。非常に音にうるさい人 (社外の方) に試しに聴かせたら「いや、金井さん。これ、すっごく音いいですねえ。びっくりしちゃいました」と、マジで感激していました。

音的にみて悲愴との違いは、まず松本のホールの構造です。松本のホールはステージが狭く天井も低め。それが客席側に向かってラッパのように開いています。いわゆる扇型ホールというんでしょうか。しかもあまり大きすぎない。

そのため狭いステージは団員で一杯。幻想も巨人も編成がでかいですからね。幻想はスコアどおりだと360人程度の編成になるそうです。とにかくクラシックがロックのようだった大音量期の代表的作品です。そのエネルギーが凝縮されて、ステージからバーンと客席に広がる迫力。ワインヤード型では味わえない迫力。それがまず如実に再生されてきます。

もう一つの違いはマイキングです。

実は「悲愴」はグラモフォンチームが録音を担当したそうです (映像はNHK)。なので立体感もグラモフォン方式。音色や迫力はともかく、少しフロントセンターが浅く、オーケストラの形もやや不鮮明でした。ワインヤード型ホールは後壁の反射音がないので距離感は出にくいにしても、実音の距離感そのものがやや近かった。

今回の録音は小林悟朗さん率いるNHKチームの録音ですが、マイキングはほとんどポリヒムニアと同じです。だから立体感がボリヒムニア録音にとても良く似ていて、ステージ上の楽器の配置が音からもよく分かります。

マイキングは映像ではっきり見て取れます。

まずT字型のデッカツリーが見えますが、これはこのBDとは無関係。デッカがCDをとるために吊ったものだうそです。ステージ上にも多数の補助マイクがありますが、これも全て2チャンネル用の補助マイク。

で、NHKのマルチチャンネルのマイクはどれかというと、デッカツリーの少しステージ側にある3本と、遠景のときに見えるサラウンド用の2本。基本的にこの5本だけで録っているそうです。これはまさにポリヒムニアに近似していますね。だからオーケストラの景色が本当によくとれています。

そうそう。ティンパニーの演奏者がベルリンフィルの「悲愴」のときと同じ人で「おやっ」と思いました。聞くと彼は夏はほとんど長野に居ついているそうで、サイトウ・キネン・オーケストラでは、夏はほぼレギュラー奏者らしいです。

いやー、すばらしいですよ。発売は2009年6月26日 。価格は定価7,140円ですが、アマゾン価格は 5,234円になっています (090517時点)。悲愴は7000くらい払った覚えがありますが、悲愴が売れたおかげで企画枚数が多くなり、価格を下げて発売できたそうです。

みなさんもぜひ予約して、発売日に入手しましょう。


SB080714-1
---試聴用/デモ用予定・好演奏・超推薦・音楽ブルーレイディスク---
---システムの腕試しに是非どうぞ 080714 (080801更新)



小澤征爾 ベルリン・フィル
「悲愴」
2008年ベルリン公演

とてもすばらしい、ある意味とても厳しいBDがリリースされました。小沢征爾がベルリンフィルを振ったチャイコフスキーの悲愴交響曲をNHKが収録したものです。ホールはホームグラウンドのベルリンフィル。すばらしい演奏、録音です。

すでに一度放送されているそうですが (かないまるは見のがしました) 、そのときは2チャンネル放送だったそうです。

それをNKHエンタープライズが「マルチチャンネルのBD作品」としてリリースしてくれます。それも96kHz24bitのリニアPCM仕様ですから、放送音質をはるかに凌駕します。

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本作品は、この記事を書いている時点 (080714) は、まだ発売前のタイトルです。それをかないまるが聴けたワケは、このBD作品のリリースに携わったNHKエンタープライズのエグゼクティブプロデューサー小林悟朗さんが当ホームページの読者で、サンプル盤が上がったので是非かないまるの会社の試聴室で鳴らしてみたいというご希望が入ってきたからです。ま、ご自身がお聴きになりたいというワケですね(^^;)

断る理由などあるわけがなく、某月某日、ハイビジョン映像と96/24のすばらしい作品が試聴室に鳴り響きました。その後2〜3日お借りしてじっくり聴き込んでみましたが、いやーすごいすごい、ものすごい。

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録音は2008年1月。カラヤン生誕100年を記念するコンサート・ツアーを収録したものです。そしてベルリンフィル (オケ) が、本拠地ベルリンフィル (ホール) で演奏しています。

かないまるは世界各地に出張しましたが、忘れられないのがウィーンにあるムジークフェラインザールとアムステルダムにあるコンセルトヘボウという世界的な名ホールで、各一週間ずつ毎日演奏を聴いたこと。TA-VA555ESで搭載した「デジタルコンサートホールモード」を作るために、目標になった二つのホールの本物の音を耳で覚えるための出張でした。

前者はウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の、また後者はロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団のホームグラウンドです。そしてかないまるは、この出張で「本拠地での演奏は、ツアーの演奏と本質的に違う」ということをはっきりと知りました。もちろんウィーンフィルもコンセルトヘボウも日本公演を聴いたことがありましたが、本拠地の音はもうまるで違うのです。


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このBDを鑑賞して改めて思うのは、世界の超一流の楽団が本拠地で演奏する音楽のすごさです。大きな意味があると思います。

実はウィーン、アムステルダムと二週間続いた滞在の最後に、一日だけベルリンに寄り、ベルリンフィルの演奏も聴いてきました。アムスで渋滞にあい、飛行機に乗り遅れたので、現地調達したチケットはあまりよい席ではありませんでしたが、それでも感想をひとことで言えば「この人たち、スゴイなあ」でした。このBDからはその「スゴイなあ」がほとばしります。

ハイビジョン映像は、譜面が読めるほど鮮明で、演奏者の表情や運指がはっきり見て取れます。この解像度は生演奏のS席にいるより演奏がよく見えます。手指は実に自由に動き、まるで日常生活で我々がランニングでもするかのように軽々と音を紡ぐのが見て取れます。

ランニング、は例えが変かもしれませんね。でも、それほど自然体で音楽が奏でられて行く。そして生まれる音楽は尋常なものではありません。スゴイ演奏を普通に弾いしまう人たちなんですね。

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全曲を通してすばらしい演奏ですが、圧巻は第三楽章の終わり付近の数分でしょうか。35分20秒くらいから第4楽章の頭まで。

大人数の楽器たちが、全員同時に力強く演奏し、そこにティンパニーの連打、そしてグランカッサ(大太鼓)の強打が「ドン」と叩かれます。その音はベルリンフィルの硬い壁で跳ね返り、「フォーン」というすんだ残響を生み、大きな大きなベルリンフィルの空間を人間に知覚させるのです。

腕のよい、力強い演奏者が大勢で同時に音を出したとき、オーディオシステムは全くごまかしが効かない極限状態に陥ります。弦楽器だけでもギリギリになる。そこにグランカッサがとどめ刺してくれます。

かないまるは久しぶりにTA-N9000ESの電源を入れました。TA-DA5300ESでも十分スゴイ音で鳴りますが、このグランカッサや多数の弦楽器の協奏が、より高い次元の再生をかないまるに要求してきたからです。そこでTA-DA5300ESのプリアウトをTA-N9000ESにつないで鳴らしたのです。実音と同じ音量感で再生すると、すごい…。

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かないまるはAVの世界で商品を作り始めてから、何回かクラシックの好演奏の再生の「難しさ」と「凄さ」に出会っています。映画やポピュラー音楽のように、最初からスピーカを使って作られる音源とは違うむずかしさ。それはまず「必ずしもスピーカで聴き取れるようにはできていない音を再生すること」の難しさです。

スピーカでミックスされた音は、聴こえなければイコライザを使ったり音量を調整したりして、少なくともミクシングエンジニアとプロデューサには、自分たちが演出したとおりに聴きとれるまで仕上げられています。

しかしクラシック音楽はもともとそういうふうにはできていません。ホールでは聴こえているのに、録音して再生すると聴こえなくなる音がたくさんあります。ステレオ2チャンネルよりマルチチャンネルのほうがはるかに聴き取り易い音の数が増えますが、5本のスピーカの調整は2本のスピーカより難しいとも言えます。結局再生する人の力量が如実に反映される。それがそれがクラシック音楽の録音作品です。

しかしここまではピュアオーディオもAVも同じです。でもAVには特別な難しさがあります。それは「見えているものは聴こえなくてはいけない」ということです。これは実は、亡くなった朝沼予史宏さんの言葉です。

かないまるがAVアンプを最初に手がけたTA-V88ES。その音を評価していただいているときに、映像に見えているティンパニーが聴きとれないという事態が発生。そのときに「見えているに聴こえないのはまずいよねえ」とおっしゃったのです。コンセルトヘボウでのコンサート形式の椿姫でしたが、そのLDは、以後TA-V88ESの「課題曲LD」となりました。

実は映像を伴わないオーディオ (いわゆるピュアオーディオ) では、聴こえない音があってもそれは脚色とのトレードオフであれば歓迎されるケースが多々あります。音に個性があり感動的であることが評価される世界。

しかしAVは映像があるので、見えていることがちゃんと聴こえることが出発点となります。画面と矛盾なく全部の音がまず聴こえなくてはならない。脚色の余地は狭いのです。かないまるはピュアオーディオを手がけていたころからクセや個性を排した音作りを理想とはしてきましたが、にもかかわらずAVの世界で最初に学んだとても大切で難しい課題です。

要するにティンパニーは叩かれる映像が見えたら、それは聴こえなくてはならないのです。バチのヘッドが変えられたら音色が変わらなければならないのです。

この作品の映像は、大太鼓とティンパニーが正面にいるので、ヘッドの違うバチが曲の途中で交換されるのがはっきり見て取れます。映像抜きに音だけでバチが変わったことを察知するのは難しいでしょう。しかしAVは、映像がその描きわけを要求してくるのです。ハイビジョンともなると、映像が鮮明なので、オケの隅々まで課題だらけとなります

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そして音の骨格をきちんと出すことの大切さと、それが得られたときの凄さがこの作品にはあります。大型システムなら大丈夫で小型システムではだめということではありません。小型システムでも出すことはできます。大型システムでもきちんと出すことは簡単ではないと思います。

うまく鳴ると「このオケは凄い」、そう思わせる音がこの録音には入っていると思います。でもそれが聴ける再生するのはとても難しいかもしれません。

再生の指針として一番いいのは、まあベルリンフィルの音を知っていることですが、ベルリンフィルを知らなくても、まずはご自身のホール経験に照らして「崩れていないグランカッサ」を目指してみてください。弦は濁ったりササクレたりしてはいけません。調整不十分だと弦が濁ったり、グランカッサの打音がボケてしまったりしますが録音がだめなのではありません。再生が難しいのです。音が整うとドイツの名門楽団の音がきっと現れます。

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久しぶりに再生の能力を問う硬派なソフトです。かないまるも手こずりました。でも2日かかって再生できたとき、AV機器もついにここまできたんだなあと思わせられる音が出ました。もう二度と出ないかもしれない音が出ました。ソフトを返却するのが惜しいなあ、と心から思いました。

得難いソフトです。かないまるも注文し、ついに商品盤を入手しました。う〜ん。やはりスゴイ。素晴らしい。AVファンのみなさんに是非手にとって欲しい一枚です。

(7/25発売)。




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