絶縁トランスによる音質改善
(上級者向け)

その2) 実験編

更新 070316
初校 070314


1) お読みいただく前に

では300VAの市販の絶縁トランスを購入し、実際に製作して実験した結果をご紹介します。使用した絶縁トランスは「機器組み込み用」という種類のもので、入力コードと出力コンセントは、自作で取り付ける必要があります。

この実験編では、その製作方法をご紹介します。当然みなさんが作ることもできます。真空管アンプなどを組むのと同様の、いわゆる自作オーディオです。

ただし自作は当然感電の危険性があります。火災の危険もあります。総じて生命に危険を及ぼす恐れがあります。製作した絶縁トランスに接続した機器を壊す恐れもあります。

しかしかないまるは、この記事の読者の方が行った行為により発生するいかなる事故や損害にも責任をとりません。実際に絶縁トランスを作ったり使ったりすることは、あくまでご自身の自己責任で行ってください。

とお約束の注意書きを書いたところで、先に進みましょう。


2) 購入したトランス




これが購入した絶縁トランスです。豊澄電源機器株式会社製。通称トヨデン。アキバ系電源トランスの老舗で、良質の電源トランスを低価格で製造販売していることで知られるメーカです。かないまるは高校生時代にラジオを組んだときから愛用しており、ゆうに30年以上のお付き合いとなります。アキバのラジオストアー内にある(有)トヨデンさんは、同社の直販部門です。

今回使ったトランスの型番はTZ11-300A2。価格は11,550円。通販のページもあります。

TZ11-300A2は容量300VAの絶縁トランスで、PS3に接続して長時間使ってみましたが、SACD、CD、BD、DVDを演奏するかぎり温度上昇は正常範囲で容量は足りていると思われます (ゲームに関しては試していませんので、全くわかりません)。



捲線のアップです。いわゆるボビンのないタイプのトランスで、ゆったりとした音になる傾向があります。

珪素鋼板による鉄心 (コア) はビス穴のあるタイプで、EコアとIコアを交互に組んで (ラップジョイントといいいます)、そのあとボルトとナットでガッチリと固定してあります。この構造は、量産のアンプには使いたくてもなかなか使えない、古典的で優れた方式です。

この方式のコアは、ときどき「ブーン」とか「プルプル」と鳴きだすことがあります。これを「唸り」といいます。私の購入したトランスもときどき唸ります。これはラップジョイントしてボルトナット止めしたトランスがエアギャップがほとんど無いため電源の波形に敏感なためで、トロイダルトランスでもよく起こる症状ですが特に異常ではありません。音質が悪くなるわけでもありません。
一次側のプラグを抜いてさし直すということを数回やれば、ほぼ無音の状態が見つかると思います。これは電源投入時に投入位相角の関係でそうなります。何度やっても無音に鳴らない場合は、ACの波形が良くないケースがほとんどで、たとえば自宅で唸りがとまらなくても友人宅で試すと全く無音だったりすることがあります。無音からスタートしても電源波形の関係で使っているうちに唸り出すこともありますが、いずれも異常ではありません。


3) お使いになる前に

このトランスを使う場合は、必ず豊澄電源機器株式会社が表示している使用上の注意を読んでからにしてください。


4) 端子の様子



このトランスの端子盤のラベルの画像です。

(P)と書いてある側がプライマリ、つまり一次捲線 (入力側捲線) です。壁コンセントからの電力をこちら側に接続します。一次捲線はトランスの一番内側に巻いてあります。

Eはその一次捲線のすぐ外に付けられたシールドを引き出した端子で、一次側のコモンモードノイズを大地アースしたいときに使う端子です。ただし大地アースを取るとACループはかえって強くなりますので音質的には落とさない方がよいケースがほとんどです。

では無用の長物かとういとそうではありません。シールドは、一次側捲線の一番外側の捲線一層の間に発生する電位差を均等化して、二次側にコモンモードとして伝搬することを防止しますので、浮かせておいても存在するだけで音質向上には役立つことが多いです。

(S)はセカンダリで、出力側。PS3に接続するコンセントをこちら側につなぎます。


5) どのように接続すべきか



この画像は、端子電圧の使い方、アースは落とすべきか否かを検討しているときの画像です。

結果ですが、

入力は110ボルト端子、出力も110ボルト端子を使うのが音質的に良好でした。入力は100ボルト端子を使うより最大磁束密度が下がるので音質が穏やかになるのでしょう。唸りも少なくなります。

プライマリが110ボルトの場合、セカンダリは100ボルトか110ボルトが使えます。100ボルト端子を使うとPS3にかかる電圧が90ボルト程度に下がります。

比較した結果では110ボルトが音質的に良好でした。入力電圧を下げてしまうと、PS3内の電源が設計条件と異なってしまうので音質が悪くなるのでしょう。

したがってプライマリ、セカンダリともに110ボルト端子を使うことで決定です。

Eに関しては、一応いろいろと試してみましたが、従来と結論はおなじでした。つまりどこにも落とさずに浮かせておくのが良好でした。


6) 使用するコード

端子盤は、基本的には単線で使うものですが、コードは縒り線でできたやわらかいものを使った方が取り扱いが楽ですし、音質も穏やかになります。

そこでコード素材として市販のOAタップを切断して使うことにします。



使用したOAタップです。ナンノ変哲もないものですが、かないまるの試聴室で壁からの引き出しに使っているのもこのタイプです。つまりかないまるの試聴室では、壁からアンプまでの引き出しにOAタップを使っていて、高価なオーディオ用コードを使っていません。OAタップは、選べば意外に音がいいんです。

基本的にはコンセント側のケースを叩いてコツコツいうものが一般的に高音質です。壁に差し込むプラグ側は硬くない方が良好なことが多いです。


7) 使用したヒューズ

このトランスは安全のため一次側にヒューズ、またはブレーカを入れておく必要があります。二次側がショートしたときに回路を保護するためです。今回は安価に済むヒューズを使いました。



秋葉原ラジオセンターのほぼ中央にある小沼電気さんで購入したもので、5Aのスローブロータイプです。一本80円でした。JENN FENG 5A250V 台湾製です。

ガラス管ヒューズは可溶体の金属線が鳴きやすい欠点がありますが、スローブローにするためかガラス繊維の芯に可溶体を巻き付けた構造なので、全然鳴きません。

ただし音がいいから選定したというよりは、アキバで適当に買っただけです。ヒューズは単価が安いので、いろいろなところで購入して音質を聴いて気に入ったのを探してください。タイムラグ型かスローブロー型を使います。



同じ小沼電気さんで買ってきたヒューズホルダです (小沼さんではJEF701という型番でした)。一個220円。同じく台湾製で最大30アンペアとれるそうで、コード中継型でこんな大容量のものは初めてお目にかかりました。




中の構造をみてその大容量の理由がわかりました。赤いコードにはヒューズホルダ端子が圧着されていますが、そのホルダ端子がヒューズの口金を完全に抱え込む構造になっています。普通中継タイプはバネでヒューズの両側から押すだけですが、この構造はいいですね。

リード線も12番線相当のすごく太いものが付いていました。

このコード中継型ヒューズホルダを、一次側のライブ側 (電線の色が白くないほう) に入れます。


8) 芯線のむき出しと単線化

では、加工方法を順次ご紹介します。



まずプラグ側、コンセント側ともコード長40〜50センチでカットします (もっと短くても勿論かまいません)。プラグ側を一次側に、コンセント側を二次側に使うわけです。

トランスがねじ式の端子盤になっている場合は、原則として端子盤に取り付ける電線は単線です。しかしOAタップはコードが縒り線なので、単線を先端にハンダ付けして単線化するのが最初の作業です。



まず外側のシースを70ミリむきます。



アース線(緑色の線)をカットしてテープで絶縁します。上が二次側 (出力側)、下が一次側 (入力側)です。一次側はヒューズを入れるので、黒線を20ミリ短くしておきます。その後、被覆を25ミリむいて芯線を出して、ばらけないようによくよります。



次に単線の被覆電線を用意して被覆をむき、単線の裸銅線を作ります。単線の被服線はホームセンターで売っていると思いますが、なければFケーブルというのがまず確実に置いてあると思います。Fケーブルの中身は単線なので、その中身を使ってください。

この皮むき作業では、絶対にコードに直角に刃を入れてはいけません。単線はわずかでも傷がつくと折れ安いからです。上の画像のように電線に沿ってカッターをいれてむいてください。この方向に刃を使っていれば、多少電線にキズがついても折れません。




皮をむいたら、コードの縒り線をむいてよった部分を一回巻き付けます。



接続部をはんだ揚げします。まずA部の単線部分からハンダ付けをはじめます。A部がはんだで濡れたら、次第にB部にはんだゴテを移動します。適宜糸はんだを差し込み、フラックス(ヤニ)が切れないようにします。はんだを差し込みすぎた場合は、半田ごてを下に回すとはんだを落とすことができます。



はんだを十分に差し込み過熱し続けると、E部のように単線にはんだが染みだしてきます。十分に流れだしたらはんだ揚げ完了です。

もし染みださない場合は、過熱不足かヤニ不足です。ヤニは半田をどんどん差し込むことで供給します。半田がポトポトと下にたれるほど差し込むのがコツです (上達するとたれませんが)。何度も練習して、よくはんだで濡れた状態にしてください。



最後に不要部分をニッパーでカットして出来上がり。より線、単線ともに半田がツヤツヤに付いているのがよい半田揚げです。



これは二次用の単線化が終わったところです。



一次側は、白線側は二次側と同じように単線をつけます。黒側にはヒューズを入れます。のでそのままです。



ヒューズホルダも、片側を単線化しておきます。その後、もう片側と黒線をよりあわせてから、はんだで接続します。



半田接続部分をテープで絶縁し、その絶縁が外れるのを防ぐために、さらにヒューズのリードをコードにテープで結合します。



9) 端子盤への取り付け

このトランスの端子盤は「ビス、スプリングワッシャ、抑え板金、端子台」で構成されています。一番下の端子台とその上の抑え板金の間にコードを挿入してビスで止めます。



まずビスから抑え板金までを全部まとめて外します。それらが分解しないように保持しながら、先程作った単線化コードの単線部分をビスにU字状に巻き付けます。単線をあらかじめペンチでU字に曲げておいてからビスを挟み、画像の左側をペンチでさらに締めてU字を軽く閉じれば、ビスは落ちなくなります)。



そのままひっくり返して端子盤にビス止めします。このとき、抑え板金には縦横がありますので注意してください。四辺のうち二辺には「潰し」が二カ所あります。もう二辺には一カ所あります。コードを押さえつけるのは二カ所の潰しがある辺になります。隣の未使用の端子盤をよくみて、同じ向きになるようにしてください。



二次側の取り付けが終わったところです。



一次側です。こちらはヒューズが入ります。

なお、一次二次ともに0V側を白いリード線にします。白の線は「ニュートラル」といって、柱上トランスで大地アースが取られる側です。壁コンセントでは長いほうの穴 (普通は左側) になります。0ボルト側はトランスの巻き始めですが、この接続の方が音質が良好です。逆にしてもトランスとしては動作しますが、音質は別のものとなります。



以上で絶縁トランスにコードの取り付けが終了しました。


10) ケースに入れます

このトランスは機器組み込み用なので、この状態では活電部の保護が十分ではありません。ですので、感電防止のためケースに入れてから通電してください。

ケースは凝りだすとそれ自体がオーディオ機器そのもののように敏感に音質を変えます。しっかりした金属ケースに組み込むと、しっかりした音質になります。

しかし金属ケースを使うと感電のリスクも増えますので、ここでは絶縁物を使った簡易型のケースをご紹介します。

まず、25〜30ミリの合板をカットして台を作り、その上に素材トランスをビス止めします。



このとき、ビスは強く締めない程度が音質が良好です。しっかり締めてから1/4〜1/2回転戻すといいでしょう。



次に樹脂 (モールド) 製ののカゴ (百円均一で売っているもので十分です) をかぶせて、カゴもビス止めします。最低でもトランスの高さより20ミリ以上深いものを使ってください。トランスは通風が必要ですので、穴のないケースはだめです。



カゴは、四コーナーをビス止めして、蹴飛ばしても外れないようにしてください。



参考までに、使用したねじです。先端に切り込みのあるタッピングタイプの細目造作ビスというもので、下穴無しで締めこむことができるのでいろいろと使えて便利です。



11) どんな音になるのか

いい音がします。PS3って、こんなにも情報量があったのかと、改めて感動してしまいました。

まず、絶縁トランスを使わない場合に比べて、音色が自然になりました。おそらくACループ上の何処かの素材がスピーカの振動で機械的に共振し、それがループ電流を変調し、音に影響を与えているのでしょう。絶縁トランスはループを切ってくれますので、それが無害化されるのだと思います。

聴感上のS/N感も向上し、細かい音がよく聴こえます。またエアの埋まり方、フロントの奥行きもよくなりました。音楽的には、スケール感、情報量感が向上し、演奏の抑揚、感情表現がより繊細になりました。

こういう効果は、電源コードに太くて高額なものを使い、HDMIケーブルもいいものをおごると、やはり似たような傾向になります。それぞれがメカ的にチューニングされているので振動的にクセが少ないのが第一の理由です。また高いコードは電線も太いので、グラウンド回路のインピーダンスが小さく、ループに流れる電流が電圧に化けにくく、悪影響が小さくなるわけです。

でも絶縁トランスを使うとループ電流そのものが少なくなりますので、安い電源コード、安い信号ケーブルでもそれなりにいい音になるのが素敵です。

とにかくSACDをかけたときのPS3の音が一段と磨かれ、その底力を改めて思い知る感じです。


121) 絶縁トランスが効果のある機器

解説編にも書いたとおり、絶縁トランスを使うと効果のある機器はPS3だけではありません。オーディオ系と接続されていてスイッチング電源が使われている機器は、まず百発百中効きます。



これは現在の使用状態ですが、手前に延びているコードはPS3につながっています。その右のDCアダプタは、PS3の操作用に使っている6型の小型テレビ (6型のトリニトロンテレビですから、結構な骨董品です) 用のものです。

このアダプタの中身はスイッチング電源です。PS3だけを絶縁トランスでアースループから切り離しても、PS3とテレビがつながっているテレビの電源のことを忘れると、そちらでACループが残ってしまいます。そこで、PS3と一緒に絶縁してみたら効果絶大。音がよくなりました。

このほか、プロジェクターもスイッチング電源機器であることが多いので、大概よく効きます。かないルームでは今回の検討後、プロジェクターに専用に絶縁トランスを入れることにしました。


12) 今後の予定

現在500VAの容量の別のメーカの絶縁トランスを注文中です。到着したら音質を確認して、またご紹介しましょう。