絶縁トランスによる音質改善

その4) なぜよくなるのか

初校 071217


1) 電源ループによる音質劣化

まずトランス電源であっても、オーディオ機器同士をケーブルで接続すると同時に、音質劣化は起こります。



この図はプレーヤとアンプというたった二台の接続例ですが、それぞれの機器にはそれぞれの電源があり、ACラインとシャーシの間に電位差を持っています。各機器の電位は交流的に全部違うものなので、機器同士にも交流電位差があります。

シャーシ同士をオーディオケーブルで接続すると、交流電位差がショートされ電位差はほぼゼロになりますが、ノイズ電流が流れ始め、微細な電位差が残ります。この電位差がオーディオ信号やデジタル信号に混ざり、ノイズやジッタの原因となって音質を劣化させます。

よく、機器の外をつなぐケーブルが太いのにセットの中のケーブルは細くてチープだがそれで良いのかと聞かれます。それでいいのです。なぜなら、機器内では、外から流れてきたグラウンド電流が信号に流れ込まないような設計が可能です。

しかし外のケーブルは(特にアンバランス接続の場合は)、ひたすらインピーダンスをさげるしかありません。10万円のオーディオ機器でも20万円のオーディオケーブルをつなぎ変えたときの音質差がわかりますが、それはノイズ電流がダイレクトに流れ込むからです。


2)極性について

機器の極性(ACコードを逆にさすと音質が変わる減少)の原因の一つは、極性を変えると、機器の交流電位の大きさが変化するからです。一般に電位が小さい方を正しい極性としています。


3)別電源配線の危険性

よく「分電盤から分けているから音が良い」と信じきっている人がいますが、もしプレーヤとアンプを別の配電からとっている方は、ぜひ一度、同じ回線からとってみてください。ものすごく音がよくなることがあります。

これは、あまりに遠くから分けたため、二つの回線そのものにコモンモードノイズが乗って電位差がついてしまっているケースです。プロジェクタの電源を天井配線からとっている場合も注意しないと音質が劣化している場合がありますが、原因は同じです。


4)スイッヂング電源機器と絶縁トランス

さて、上図はトランス電源で書いてありますが、たとえば下のプレーヤがスイッヂング電源機器だったとしましょう。するとノイズ防止のためシャーシとAC電源の間にコンデンサが入るのが普通なので、輻射ノイズは小さくなるものの、AC電源との結合は強くなります。

このためシャーシ間を流れる電流は増えるのが普通で、これがスイッヂング電源機器が音質を悪くする原因です。

絶縁トランスは、ACプラグとシャーシの結合を、ACラインとの間で切ってあげることができるので音質がよくなるのです。

PS3に絶縁トランスを入れると音質がよくなるのは、スイッヂング電源機器であるPS3を、トランス電源方式に変更したのと同等の効果があるわけです。PS3にかぎらず、すべてのスイッヂング電源機器を改善することができます。


5)意外にコワイ映像機器

PS3の場合は、オーディオデータを生成するプレーヤ自身なのでまだわかりやすいかもしれませんが、ビデオ機器(TVやプロジェクタ)をつないだだけでも音質が劣化します。と書くと、なぜ映像機器が音質に関係するのかと疑問に感ずるでしょう。

しかしプロジェクタやテレビなどのスイッチング電源搭載の映像機器は、シャーシとAC電源との結合が大きく、ノイズも多いので、アンプやプレーヤとつながれると、つながれた機器のグラウンドにだけでなく、接続されているオーディオ機器すべてのグラウンドにノイズ電流を流してしまいます。



この経路を大雑把に書いてみたのが上の図です。

上図ではHDMIと書きましたが、HDMIにかぎらず、アナログのY-PB-PR (いわゆるD端子接続) でもこれは同様です。

つまり映像機器のノイズは、つながれた機器のところでは止まらないのです。全部のオーディオ機器と、それをつなぐケーブルに流れるのです。しかも映像機器はオーディオ機器の感覚では設計されないことが多いので、映像機器に絶縁トランスを入れることは、音質上効果的なことをよく経験します。

なお、絶縁トランスは映像品質もよくしてくれのが普通です。詳しい説明は省略しますが、アナログ方式では同期信号に直接ジッタが入ります。

デジタル方式では影響がないと思ったらさにあらず。最近も某社のLCDプロジェクタで画質がかなりよくなることを経験しています。

これは、ノイズがあるとパネル側での再生クロックにジッタが増えますが、これが液晶パネルの明滅タイミングを時間的に前後させていることを人間の目が感知してしまうのではないかと思っています。