かないまるが音質をお手伝いした
高音質HDMIケーブル
SH1010
080702初稿
1) はじめに
ITメディアや
AVウォッチで速報がでたのでお気づきの方も多いと思いますが、
サエクコマースからSH1010というHDMIケーブルが7/20に発売されます。このケーブル、音づくりをかないまるがお手伝いしています。
PS3やTA-5300ESといった優れたプロダクツを活かすためには、よいケーブルはどうしても欲しい状況があります。昨年あたりから「HDMIケーブルのいいやつ」を早く出して欲しいと、多くの方から渇望されはじめました。
HDMIケーブルというのは、シールド付きツイストペア(STP)が4本で構成されていますが、諸般の事情でかないまるは、このSTPを中心とするケーブルの伝送路部分に比較的詳しい音質的な知識を持っています。同軸デジタル伝送(SPDIF)を初搭載したDAS-702ESを世の中に送り出して以来積み重ねた経験から、いろいろと学んできかたらです。
そこで、オーディオ機器をいかす音源として藤田恵美さんのSA-CD作品をお手伝いしたように、「HDMIケーブルのいいやつ」の商品化をお手伝いをして完成したのが、このSH1010というケーブルです。いわば高級ケーブルの世界でのアンプ設計者と、オーディオケーブル老舗のコラボレーション。
製品が出るまでまだ少し時間がありますが、このケーブルのについてご紹介しようと思います。
2) HDMIケーブルの難しさ
HDMIケーブルは、
高速信号伝送用にシールド付きツイストペア (STP) を4本
CECや電源、グラウンド用に10本程度 (規格の世代による)
の二つに大別される信号線を複数本ずつ束ねた規格ですです。このうち1のSTPの部分が高度な性能を要求される部分です。最近でこそ安定してきましたが、2002年頃の出現当初は、そもそも信号がロックもしないようなケーブルが世の中にたくさんありました。
HDMIケーブルの難しさは、中を通る4本のツイストペア伝送速度が4本ともピタっとあっていないといけないことにあります。信号がきわめて高速なので、伝送速度がずれると、クロックとデータがずれて信号が読めなくなってしまうのです。
一方、音質ケーブルというのは、電気的性能を多少犠牲にしてでも音質がよいことを採るという設計手法をよく使います。 しかしHDMIではそんな余裕はほとんどなく、電気的性能が高く、同時に音質がよいことを両立しないと音がよくなりません。これが本当に難しい。要するに小手先で音をかまう余地があまりないのです。.
かないまるは今までのところ音質的に完成度が高いと思ったケーブルに出合ったことはありませんでした。手前味噌ですがSH1010は本当にすばらしい音がします。
3) SH1010の音質イメージ
SH1010はどんな音かするのか。まず中高域がみずみずしく、とても素直です。ふわっと広がるエア感は特筆に値すると思います。HDMIで非常に難しい部分がここです。
低音のリズム感も非常によくベースのノートがよく聴きとれます。またクラシックの大太鼓の皮の揺らぎのような、アタックとエンベロープを正確に描かないといけない部分も非常によく表現します。
クラシック録音ではステージ上の音源位置の明確さはもとより、ホールトーンがリスニングルームのサイズを超えて隅々まで広がります。ジャズやポピュラーでは、演奏の様子がリアルに見えるかのようにつたわります。
これらのうち、中高域の素直さやたっぷりとしたエア感、良好なリズム感は、ほぼ伝送路の作り方で決まります。引き締まった低域の見事な表情や、曖昧さの微塵もない質感は外皮 (シース材) やコネクタ部の仕様が支配しているといっていいでしょう。
4) コラボのわけ
ここまで書いてくると、そんなに知っていてどうしてかないまるのところで全部完成させなかったのかと思われるでしょう。じつは、かないまるには、シースやコネクタ部分のノウハウが不足していたのです。いまでこそ相当わかってきましたが、最初ほぼノウハウが無い状態。
一方で「HDMIケーブルのいいやつ」はたいへんに急がれています。そのころケーブルメーカの老舗であるサエクコマースの北澤社長を紹介していただきました。高級ケーブルのシースやコネクタの構成にすばらしいノウハウを持っています。
「じゃあ一緒にやりましょうか」。
これがコラボ開始の経緯です。今回のケーブルでかないまるはシースやコネクタの構成のノウハウをかなり勉強させてもらいました。「次は自力で作りたいかも」。今はそう思うほどです。
5) 始まりは i.LINK用ケーブルの試作
ではこのケーブルの中身である伝送路の生まれをちょっと書きましょう。
検討のスタートは2003年にさかのぼります。当時は i.LINKの時代でした。TA-DA9000ESで、i.LINKによりデジタルオーディオのマルチチャンネル伝送を初めて実装しました。
しかしそこで困ったのがケーブルです。「これはよい」といえるケーブルが無い。そこでかないまるは、 i.LINKケーブルそのものを試作してみて、なにをどうすると音がよくなるかの勉強をはじめました。
これは当時の試作ケーブルのほぼ最終のものです。 i.LINKは内部構成は簡単で、STPが2本あるというだけのものなので、この部分を徹底的にチューニングし続けました。
これが内部構造です。一番内側がツイストペア。その外にアルミ蒸着フィルム樹脂フィルムのシールド。さらに銅線のシールドをかけた二重シールド構造です。
ツイストペアに使う信号線に使う銅線は純度の高い電気銅に銀メッキをかけたものです。銀メッキはピンホールが全くないといえるほどに均一性を確保してあります。周波数から言って、信号はほぼ全部銀メッキ層を流れますからね。メッキの良否は音質にモロに効きます。
白とピンクの絶縁体は発泡テフロンでできています。発泡テフロンは、現存する電気部品材料では最も空気に近い優秀な性能を有していて、きわめて音質のよい素材です。「これを使えば音はよくなる」。この検討でかないまるがつかんだ結論の一つです。
この部分は目に見えるのでとても分かりやすいということで公開しますが、そのほかにも音質を決めるポイントが山のようにあり、いわばノウハウの固まりです。もちろんそういうところはナイショですよん。
さて、この i.LINKケーブルは、音質的には完成しましたが、残念ながら商品化できませんでした。理由は画像に写っている白のシース材が、音は抜群にいいんですが、汚れが付きやすい上に印刷が乗らないんです。樹脂のコストもかなりのものでした。そのほか民生用に商品化するには結構問題が多かったのです。
*プロ用ケーブル「ファイン・フォーカス」
余談になりますが、この試作ケーブルは藤田恵美さんの作品をお手伝いするときに、ファイヤーワイヤーケーブルとして阿部さんに試験的に使っていただきました (記事はこちらにあります)。
というのも、阿部さんが最初にかないまるの試聴室にみえたときに持ち込まれたプロ機から、TA-DA9000ESで苦労したのと全く同じ「 i.LINKの欠点」が聴こえてきたからです。ファイヤーワイヤーとi.Linkは兄弟ですから、試作ケーブルを使うときっといい音がしそう。
結果はすごくよくて、camomile Best Audioは基本的にDSDデータへの吸い上げまでこの試作ケーブルをトータルで使いました。
この関連の出来事はAVアンプの設計にもフィードバックされて大きく役に立ちましたが、ケーブル自体もその後プロの現場で話題になり、同じケーブルをお使いになりたいという話が出てきました。
AVアンプ側としては、よい音の音楽作品が生まれることは業界活性化のために大歓迎なことですので、そのままの仕様でストリップ・インクから買えるようにしてあります。コネクタの取り付けが手造り的だったり、汚れやすいことや印刷が入っていないのはそのままなので音がよければそれで万事OKのプロ専用。ただし外観でクレームをつけなければ一般の方も購入は可能です。
- このファイヤーワイヤーケーブルはファイン・フォーカスFFC4001といいます。デジタルパフォーマー、プロツールズLEをお使いの録音エンジニアの方、録音マニアの方がお使いになれます。プロ用なので購入はその筋へどうぞ。販売代理店のストリップ・インク(担当・赤川さん)に直接連絡すれば、プロの方はデモケーブルを借りることがでます。
- また、恵美さんのミックス中に、赤川さんが日常使っているプロツールズ用のケーブルはできないかと相談を受けました。ツールズ用はAVアンプとは全く関係がなので知識が無かったのですが、ケーブル規格を個人的に調査して新規に設計し、ストリップ・インクのスタジオでチューニングをして完成させました。これはファインフォーカスFFC2601としてラインナップされています。このケーブルはツールズの抱える問題点を一つ除去するので、録音現場にケーブルだけ持ち込めば「差のつく仕事」ができます。マスタリング用に使ってもいい音になりますよ。
- ファイン・フォーカスのトップページはこちらです。
6) HDMIケーブルへ
閑話休題。
というわけで、i.LINK時代にいろいろなことをつかみ、それでいながら民生用ケーブルの商品化で行き詰まっていたところにやってきたのがHDMIでした。
しかもHDMIはものすごい勢いで普及し始めました。波が来た感じ。その結果、高級ケーブルのご要求がものすごい。自分でももちろんいいのが欲しい。そこですぐにHDMIケーブルの試作をはじめました。そして再びシースとコネクタで行き詰まってしまいました。
ノウハウが足らない…(^_^;)。
ただ、 i.LINKで試作したときのノウハウをいかせば高級ケーブルが作れるという確信は持ちました。この確信をベースにケーブルのプロとのコラボがはじまりました。
それで「すぐ」にできたかというと、いやーとんでもない
(^^;)。結局一年半もかかっちゃいました。
最初に作った試作から「素性」はいいんですが、シースをかけてコネクタをつけてと試作をするとなかなか完全なバランスがとれないんです。
そのため、丹念にクセを取り除きバランスを取り直しては試作することが続きました。そういう過程で、結局ケーブルのプロはかないまるよりもケーブルのノウハウという持ち駒は多いてすが、チューンそのものは小さい改良の積み重ねでした。これはハードとしてはAVアンプと全く同じやり方で、藤田恵美さんの作品づくりでミックスを丹念に工夫して音を紡いで行く作業にもよく似ていました。新たに音質をよくするノウハウも生まれました。
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