「湯煎」による音質改善
(温度をかけてストレスを抜く)
080726初稿
1) はじめに
SH1010が7/20に発売されました。もう手にした方もいらっしゃるでしょう。かないまるも早速入手しました。
さて、高級オーディオケーブルは買ってすぐによい音がするかというと、必ずしもそうではなく、エージングが必要なことが多いものです。これは製造時のひずみ、パッケージに収めるときの巻き癖、コネクタ差し込み角度によるストレスなどが原因で、いわば「ケーブルのストレス三兄弟」です。
もちろんストレスはエージングによりいずれは抜けて必ず音がよくなります。しかし、高級ケーブルは概して硬くできているので、エージングには時間がかかるケースが多いといえます。
本稿では、このストレスを一気に抜いて、音をよくするワザをご紹介しましょう。
2) どんなストレスが入っているか
どんなケーブルでも初期ストレスは持っています。SH1010を音質確認したところ、やはり「エージング前」という感じの音でしたので、これを例に、まず原因を解説しましょう。
これはパッケージから出したケーブルを手に持って垂らした状態です。うねっているのは巻き癖です。SH1010は高速なHDMI信号を正しく伝送し、またスピーカの音圧などによる振動に負けないように、しっかりしたやや硬いシース材を使っています。これが、パッケージに納まっているときに巻き癖がつくようです。
次に、コネクタを機器に差すとき、最初から角度があっているわけではなく、最初はコネクタを回転させて穴に差すことになると思います。このときシース材が硬目の場合はコネクタ部分にストレスがかかり、音質に影響を与えます。運がよいとそのまますっと刺さりますが、運が悪いと180度回転していたりします。
このほか、見た目にはわかりませんが、製造時にコネクタ部分をモールド成形したときの成形応力が残留していることがよくあります。
3) 通常はエージングして待つ
こうしたストレスや巻き癖は、機器を接続して放置しておけば自然にとれて行きます。シース材は硬いようでも流動性があり、巻き癖も回転力も必ず抜けて行きます。成型時のストレスはほとんどの場合シースの癖より早く抜けます。
しかし、自然にストレスが抜けるのを待つと、速くて1〜2週間。高級ケーブルだと1〜2カ月かかることがあります。このような初期の硬さは高級ケーブルには多かれ少なかれあるもので、決して商品の不良などではありません。
4) 「湯煎」により速攻でストレスを抜く
ストレスが抜けるのを待つのはなかなか辛いものがあります。そこでこのストレスを速攻で抜く「湯煎(ゆせん)」という方法を伝授しましょう。
まずケーブルをポリ袋に入れます。画像の袋は、そば粉の保存用に入手した厚手の袋です。これは入手しにくいので、一般的にはごみ出し用のポリ袋を二重にして使うのがよいでしょう。
次に袋を容器に入れて熱湯を注ぎ込みます。画像は瞬間湯沸器で熱湯を注いでいる様子です。瞬間湯沸器が使えない場合は、なるべく大きめの鍋に湯を沸かし、その中に漬け込むのでもOKです。火傷しないように気をつけてくださいね。温度は90度くらいがよいと思います。
熱湯を注いだら5分程度放置します。時間が来たら袋を湯から出し、ケーブルを濡らさないようにバスタオルで袋の水滴を拭き取ってからケーブルを袋から取り出してください。ケーブル全体が熱くなっていると思います。
垂らしてみると、先程まであった巻き癖が抜けていると思います。コネクタ部のモールドも軟化し、成型時のストレスも全部抜けてしまいます。小さな巻き癖が多少残っていても、大きなストレスは抜けてしまっているので、そのままで普通は問題ありません。あまりしつこく湯煎するより、残りは使ってエージングしたほうがよいでしょう。
ただし強い巻き癖が残っているようなら、もう一度湯煎してください。湯煎は二回までにしたほうがよいと思います。
5) ここで注意
ここでご注意を。湯煎直後のホットな状態では乱暴な扱いは絶対に避けてください。
たとえば小さい巻き癖を気にして強い逆曲げをしてはいけません。直径15センチ程度の曲率までなら軽く逆曲げしてもかまいませんが、それ以上の曲率で曲げてはいけません。
ホット状態で乱暴に扱っていけない理由は、内部の素線の構成をくずしてしまわないためです。小さい巻き癖などは使っていれば自然にとれますので、気にしない方がよいのです。
6) ケーブルのよじれをとる
次にこのホットな状態で機器間を接続してみてください。普通はコネクタとケーブル先端の角度をあわせようとすると、回転力を強く感ずることがあると思います。しかし湯煎直後だとシース樹脂が軟化しているので、ほとんど回転力なく接続穴の角度に合わせることができると思います。
ただし、すぐにコネクタを抜いて、もしくは刺さないで位置合わせだけして、その角度を維持したまま手で持って、温度が下がるのを待ってください。
これは接続したままだとコネクタ部付近にケーブルの自重がかかって下向きに小さい角度で曲がってしまい、ケーブル内部にかえってストレスが入る恐れがあるからです。
ケーブルが冷めたらいよいよ機器同志を接続します。
7) 接続と試聴
以上の画像は、SH1010の初回ロット品を個人で購入したものを撮影したものですが、試聴結果を書いておきます。試聴はPS3と:TA-DA5300ESを接続して行いました。比較対象はこのケーブルの最終試作品 (リファレンスケーブル) です。このリファレンスケーブルは量産の基準ケーブルなので、湯煎はしてありません (ひたすらエージングして音を整えてはあります)。
まず購入品は、そのままの状態でも十分な情報量があり、一定の水準に達していました。しかしバランス的に低音感がやや弱く、やはりエージングが必要だなという音でした。
湯煎でストレスを抜いた後は、豊かな低音感とリッチなエアが得られていました。その音は開発時から二カ月以上エージングしているリファレンスケーブルとほとんど同等で、よい音がしました。
このページの情報は、SH1010を例に使いましたが、一般的に使えるノウハウですが、触って柔らかい感じのシースの場合は、温度を70度程度に抑えてください。