[111016]
お勧めのハンダはありますか

(111009に関連した御質問です)


ご質問)

半田もいろんな種類がありますが音質に良い半田の銘柄、又は金属の含有量で決めておられるのでしょうかお尋ねいたします。


お答え)

ハンダは一度買うと普通の方は一生もので、ほとんど買い換えないでしょうから、お勧めの銘柄なんてとても怖くていえません。でも結論からいうと、普通の鉛入りハンダでまず問題はないと思います。

実はかないまるは、会社では現在は非鉛品しか使いません。これは欧州のRoHS指令というのがあって、2006年から

でないと販売できないからです。試作品がうっかり海を渡っても問題なので、現在は会社の作業環境には鉛入りハンダはありません。

まあ、とにかく今は鉛入りは使えないのですが、実は鉛は錫の鳴きを抑えてくれるので、鉛入りのハンダは音質がおとなしくてとても使いやすいのです。鉛がなくなると、錫が鳴きだします。鳴きをダンプしてくれる物質がなくなるからです。そもそも錫は「鈴」と語源が同じだそうで、基本的によく鳴く金属で、鉛がなくなると不純物による音質差がものすごく出やすくなるのです (鉛があるとかなり不純物の構成がちがっていても大差ない。つまり、あまり考えなくてもよかったのです)。

非鉛にもいろいろありますが、特に「錫・銀・銅」の合金ハンダは、非鉛系では融点が低いのですが音が固くなる傾向があります。これを「音の輪郭がはっきりする」などといって良い音と勘違いすることがあります。もしそう思ったら是非演歌を聴いてみてください。

吉幾三の「雪国」は、かないまるがチェック用に使っている楽曲。判断用に勧めです。冒頭の「好きよ〜(^_^)♪」が「ツキヨ〜(>_<)X」に聴こえたら、それは錫か銀の鳴く音です。いわゆる「音質のよい録音」では好ましくても、あらゆるジャンルのソフトに向くというのはなかなかできませんが、これはもう格好の実例です。映画はサウンドエフェクトにどんな音が入っているかわかったものではありません。なのでAVでは演歌やアイドルが正常になることをかないまるはとても大切にしています。音のよくない (概して硬質な) ソフトを、音が悪いといって拒否することができない世界だからです。みなさんも非鉛ハンダを買ったら是非テストしてみてください。雪国の冒頭が「すきよ〜」と聴こえたら合格です。安心して使ってよいと思います。

かないまるは2001年ごろから数年かけて高音質非鉛ハンダを完成させましたが、クラシックやジャズを聴く前に「雪国」で落ちたサンプルが山のようにあります。できあがった非鉛ハンダはとても音がよいのですが、このハンダは外販していません。

しかし、実はこのハンダは、鉛入りハンダに味が近いのです。オーディオパーツは鉛入りハンダ時代に音のバランスがとられたものが多いので、鉛入りとあまり結果の違うハンダではなかなかバランスがとれません。最近でこそ非鉛ハンダと相性のよい部品がふえてきましたが (そういう部品をメーカさんと一緒に作るのもまたかないまるの仕事ですが)、まだまだ鉛入りハンダ時代に作られた部品のほうが多いくらいです。全く音質評価をされずに使わざるをえない部品も山ほどあります。だから本職はつらいんですが、みなさんは非鉛にこだわる必要はとりあえずなくて、入手できるうちは鉛入りハンダがよいと思います。

------
「鉛入りハンダ」とはなにか、なぜ音質がおとなしいか、少し解説しておきましょうね。

2006年に輸出する以前のオーディオ機器の製造に使われていたハンダは、錫60%、鉛40%の成分で、一般的にはH60ハンダ (JISの呼称です) と呼ばれています。

金属を混合すると、混合比により共晶という現象が起こります。錫も鉛も単独での融点は200度以上ですが、共晶点では融点が184度まで下がります。錫-鉛の場合は錫62%、融点が184℃です。

H60は完全な共晶点ではありません。共晶ハンダ (JISではH63ハンダ) より鉛がほんの少し多くなっています。合金は液体から固まるときに、最初に固まる部分は共晶状態で、最後に固まる部分は濃度の高い金属が多く含まれている状態になります。

H60ハンダは、まず銅との境界面で、析出した銅、鉛、錫の三元素の共晶状態で固まりはじめます。ハンダと錫と鉛だけですが、そこに銅が加わって別の共晶が起こるのです。ハンダの外側の表面には錫と鉛の共晶層が最初にできます。この両者にサンドイッチされた形でハンダ層の中にはやや鉛の濃度の高い部分ができるて固まることになります。つまり普通に冷ますと銅鉛錫共晶-鉛リッチ部、鉛錫共晶の多層構造になります。

音質はさいわいなことにこの状態が良好です。銅との境界の銅鉛錫共晶と、表面の鉛錫共晶は、途中の鉛リッチ部分より硬いのですが、金属に限らず、柔らかいものを硬いもので覆った構造はロスが大きく鳴きにくいからでしょう。


------
「鉛フリーハンダだから音がいい」という商品もあるようです。たしかにかないまるのハンダも、鉛でダンプされていないだけ情報量感はリッチですから、活かして使う分にはよいと言えます。でもみなさんが秋葉原で買うパーツ (特に真空管時代のパーツ)は、鉛ハンダを前提にバランスができているものがほとんどなので、けっして使いやすくはないと思います。

いずれにしても「鉛フリーで音質がよいハンダ」はとても高価です。お金と腕に自身のある方は積極的に買ってください。でも、一般的にはH60ハンダでよいと思います。現在のところ日本では法律に違反するわけでもないし、実際にまだ買えるのですから、今のうちとも言えます。鉛入りを持っていれば、そのままでよいと思います。