[111015]
ハンダ付けと圧着はどちらがいいですか。

(111009に関連した御質問です)

更新 111020 (一部追記、誤記訂正、ご質問者の返信を追記)

ご質問)

AVアンプでバイワイヤリングを実施する方法を興味深く拝見しました。早速実践したいと思います。
ところでワイヤーの接続には線を捩って半田処理をお勧めですが、他に圧着端子で線を圧着させる方法があります。
圧着することで半田が線間に入って音質に影響を与えるのではという考えと、圧着する際に線の銅の結晶を壊していまうので良くないなどいろんな説がありますが、かないまるさんはどうして半田処理を選択されましたか。


お答え)

まず圧着とハンダ付けは、どちらも音質は基本的には大丈夫です。それを前提とすると、ケーブルメーカがたくさん作るには圧着が適しています。しかし個人がたまに作るには、ハンダ付けのほうが適しています。理由はカシメ工具が要らないからです。

ケーブルメーカはまれに (いや、しばしば、かな) ハンダ付けを否定しますが、これは間違いです。

アンプの中はハンダ付けとコネクタでできています。プリント基板上の部品は全てハンダ付け。電線をコネクタの金属端子に取り付ける部分は圧着でできています。つまりみなさんは、両方の接続でできた商品の音を聴いています。したがってどちらかを否定してしまうと、オーディオ機器そのものが成り立ちません。否定しないで済んでいるのは、どちらも音質は大丈夫だからです。圧着とハンダ付けで、どちらがすぐれているとか、どちらかはダメということもありません。適材適所なのです。

もちろん圧着とハンダ付けの両方が使える場所では、両方作って音質比較ができます。当然違いが聴こえます。しかしそれは (電気的接続がきちんとできているかぎり) 本質的な善し悪しではなくて、機械的共振状況の差が作り出す「音色の傾向」にすぎないことがほとんどだと思います。

もちろん音がダメなハンダ、音がダメな圧着もあり、それは排除しなくてはなりません。

しかし単なる音色傾向ならば、それは深刻なものではありません。全体のバランスを少し変えるだけです。トータルでバランスをとるのがオーディオという趣味の神髄です。もちろんケーブルの圧着仕様で最終のバランスをとることも可能ですが、ちょっと大変です。アンプの上にパチンコ玉を数個置くだけでも、機械的な共振に起因する音色は変えることができます。接続方法でしか変えられないと思い込むと身動きがとれなくなります。


・圧着の適、不適

圧着は金属をつぶして電気的接続をするので、接続部は純抵抗性の質の良いもので、基本的な音質はすぐれています。端子をスピーカターミナルにねじ込む部分は締めつけるだけなので、よほど非線形性の危険があるほどです。

線材と端子類 (バナナ端子、Y端子、ラグ端子など) との接続は圧着が最適の方法でまず悪さをしません。ハンダ付けで端子類を取り付けると、端子表面が高熱になり酸化して、ラグ側の接触を悪くする恐れがあり、放熱をしたり、ハンダ付け後磨きを行うなどの対処が必要になることもあります。

ただし今回のように電線同志を接続するのには向きません。やろうとすると線をよじってからスリーブをかぶせて、スリーブごとつぶすことになりますが、スリーブは電線の外側に導体をぶら下げることになりますので、スリーブと電線に電流が分流します。分流の配分は周波数により変化しますので、これにより音色が付きます (普通は帯域が狭くなるように感じます)。

またスリーブには質量があるので、接続部の先端に重りを付けたようになり、機械的な共振周波数が一つ追加されることが多く、これでも音色が変えます。やはり帯域感じ感が狭くなります。

この帯域感の変化を、ノイズ感の除去に利用するなどアクティブに利用するのはよいことですが、「低音が出る」など勘違いすると、素直な広がりが減ることに気付かず、再生能力の可能性を低くしてしまうことがあります。

これ以外に圧着で気をつけなければいけないのは、圧着されていない素線 (細い電線一本一本) が一本でも残ると、音質がとても悪くなることです。危険なのは素線が1〜2本、スリーブを除去するときに切れてしまうケース。圧着ではこれが必ず接続から取り残されます。ハンダ付けならじっくり作業すれば外皮の中までハンダが入りますので、たとえ素線が1〜2本切れていても、外皮に入ったところで電気的に接続されるので大丈夫なのですが、圧着では即アウトです


・ハンダ付けの適、不適

ケーブル同志の接続はハンダ付けのほうが簡単です。しっかりより合わせてからハンダを染み込ませれば、もっとも質量が低い状態で結合部分が作れるからです。全部の周波数が同じ状態でコンタクトを通るので、その意味で音質をとても素直にできます。

ただし、ハンダ付けは上手・下手がかなり音を変えます。十分に熱し、少なめのハンダで仕上げるのがコツです。容量の大きなハンダごてが必要です。普段は20〜30ワットで、ボタンを押すと80〜120ワットになるようなコテががあり、これがお勧めできます。もし無鉛ハンダを使う場合は、温度を制御できるコテを使わないとなかなかむずかしいですが、鉛入りのハンダならボタン式のゴテ (かないまるたちはこれを「ターボごて」と呼んでいます) で十分です。

ハンダは銅より柔らかい金属なので、銅の振動をややダンプします。素線間のハンダが多すぎる (ハンダ層が厚すぎる) と音色を変えてしまいます。ハンダ付けする前に、電線を十分に撚るように指摘したのはハンダの層を薄くしたいからです。

硬くよって、じっくり熱してフラックスをよく溶かしハンダと銅を馴染ませて、各素線を完全に電気的に接続します。ハンダをたっぷり染み込ませることで、被服の中までハンダが入りますが、これが役に立ちます。

その後ハンダゴテを接続部の下にいれて、ハンダを落とすことで素線の姿が見えるまでハンダを減らします。すでにハンダと銅が合金化していますので、どんなに薄くしても接続は大丈夫です。このハンダ減らし作業で、圧着で起こるスリーブ効果に相当する障害が消えます。




今回実例として示した接続部分をアップにしてみました。

ことがお分かりいただけますね。このようなハンダ付けなら圧着に負けることはありません。どちらかというと圧着よりよいと思います。

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とまあ、以上の理由でハンダ付けを選択したということです。

私はバイワイヤ用に限らず、ケーブル長が足りなくなると、躊躇なく同じ接続方法でハンダ付けします。会社の試聴室のサラウンドスピーカ用のケーブルは、実は途中でつないであるものがありますが、音質は全然大丈夫です。

コンセントタップの自作記事が進行中ですが、これも同じ接続方法です。


御質問者からの返信)

早速のご回答有難うございました。

半田付けや圧着を否定するとアンプは作れないとの明快なご回答に納得すると供に、どちらも処置を適正にしないと良い音にはならぬこと、肝に銘じると供に、これまで処置があいまいだったことを反省しています。

試みた結果、これまで音が硬く高域に引っ張られる印象が解消して静かで音場も格段に広くどっしりとした印象で大成功です。お礼申し上げます。


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