その6

柔構造(側面の防振)

初稿 090214
(その5を二つに分割しました)


さて、口径65ミリ、ダクト長52ミリという設計は、板厚が薄くても内圧が低い設計であることを同時に物語っています。

ハーベスは箱鳴りを利用したスピーカだと思われがちですが、それは正鵠を射ていません。最低域はきちんと延びていて、エアもよくだします。箱なりでエアが出るということは絶対にありませんから、箱の振動はよくコントロールされているんです。そして無理のない低音の延ばし方が抜群のリズム感を生み出しています。

ハーベスの箱が薄いのは、全体を柔構造にしたい、とりわけウーファのリアクションをコーン紙に返したくないというハーウッドの意志でしょう。




さて、ハーベスの箱は全6面同じ合板を使っていると思われますが、バフル面をのぞいた5面が黄色いスポンジで覆われています。

これはポリウレタン製の吸音用スポンジで、スピーカ専用品です。最初は白っぽいんですが、年月を経ると黄色くなります。

ボリウレタンは紫外線と水分があると加水分解してボロボロになります。ハーベスのグリルやJBLのエッジがボロボロになるのはそのせいです。しかし箱の内部は紫外線が入らないので、変色はしますが、ボロボロにはなりません。

吸音材の王様はグラスウールですが、鳴りのよいスピーカを作るときはポリウレタンもよくつかわれます。なので両者は吸音材の双璧といえます。最近はポリエステルの綿もつかわれますが、かないまるは好きではありません。サワサワと独特のひずみ音が乗るからです (まあ使い方によりますが)。

さらに注目してほしいのは、ウレタンのさらに内側。箱の板面にダンプ材が貼り付けてあることです。タッカが併用されていますが、接着されていて、フロントバフル以外の5面の振動をおさえています。



これは背面の蓋の裏側ですが、ターミナル部分以外は他の面と同様の処理をしてあります。つまりハーベスはフロントバフル以外は制振されているのです。

ハーベスモニター4の合板はおそらく6面とも同じと思われます。一セットしかないのでバラしてみることができませんが、まず間違いないでしょう。

スピーカエンジニアによれば、この合板は恐らくスピーカ専用品だろうということです。ソニーの場合も合板をスピーカ工場で自前で作っていたりしますが、音を支配する要素なので、結構気をつかっています。

ハーベスのものはハーウッドがBBCモニターを設計したときに作ったバーウッド仕様でしょう。恐らくこの板厚の音が好きで、同じ板を6面全部に使ったのだと思います。


・フロントバフルは鳴っても構わない

欧州にはフロントバフルやユニットは動いても構わないという考えがあります。動いても歪むわけではないので、音調さえ整えてあれば構わないという考えです。

日本では「フロントバフルはユニットのメカニカルアースでなければならない」という信仰があります。だれが流布したか知りませんが、もちろんそういう設計もあってよいと思いますが、それ以外を否定するのはまちがいです。

欧州ではユニットをゴムで止めものがあります。かないまるが会社で使っているB&W 801 MTX-S3は、ウーファをゴムブッシュを介してバフルに取り付けていて、ウーファのフレームはコーン紙の動きの反作用で常に動いています。

15年ほど前に欧州で大ヒットしたタンノイの低価格モデルもバフルは非常に弱くできていましたが、もすごくいい音がしました。

なぜか。

それはガチっと止めると、スピーカユニットのフレームの振動がバフルで反射して硬い音を作るからです。サスペンションのない車に乗りたいですか。ガチガチでいやでしょう。

もちろん圧倒的なマスと剛性で箱を造り、ユニットもガッチリしたフレームで造り、スピード感溢れる低音を出すものもあります。

しかしフレームをあまり丈夫にしないで、全体を柔構造にしても、作用・反作用で発生する振幅の周波数特性がチューニングされていれば、それでも全く構わないという考え方があるということは知っていた方がいいでしょう。

基本的に日本では、オピニオンリーダ達が頑丈・メカニカルアース信仰に偏っていたと思います (アンプ、プレーヤもしかりです)。なのでユーザも柔構造を一般に啓蒙されていないので受け付けない。設計する人間も、低価格の強度の低いモデルが、高額モデルよりよい柔構造であるがゆえに、むしろよい音を出すこともあるということに気付かない。

これは困ったもので、日本のオーディオ界はもう少し柔構造の良さを勉強したほうがいいと思います。ただし柔構造アンプを仕上げるには、ものすごいバランス感覚が要りますが。

スピーカを鳴らすのもそうです。柔構造スピーカはバフルが振動します。最低スパイクを使って床との接触を点接触にする必要があります。会社のB&Wは、同社指定のサウンドアンカという柔構造スパイクラックのうえに乗っています。

かないまるはハーベスを指定ラックに載せて使っています。



どうですか。足がすごく華奢でしょう。こさを丈夫な台に変えると恐ろしいことになります。ハーベスの良さが全く出なくなるんです。

柔構造は、柔らかく深みのある音を得るよい方法ですが、使い方は実は設計は簡単ではないと思います。




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