その5

大きめの箱


初稿 090213
更新 090215



では内部を観察してみましょう。もう一度内部を撮った画像。




まず注目したいのが、ダクト径とダクト長。ダクト長よりダクト径のほうが大きいんですが、これは、スピーカのエッジがある程度固めで、箱が大きいときにやる設計です。

箱とユニットでf0付近の低音がある程度出ていて、バスレフは軽く効かせるタイプ。低音の延び、途切れ、音程の変化感(=リズム感の全てが満足しやすい設計です。

欠点は箱が大きめになることですね。

かつて日本のオーディオ界には「ゴッキュッパ」スピーカというのがありました。ハーベスと同じくらいのサイズの箱に30センチウーファをつけて3WAYにしたスピーカ。箱は頑丈。吸音材はグラスウールをギュウギュウに詰め込んで、形式は密閉で低音を無視するか、長いポートで無理矢理共振させてなんとか低音感を補強。

でも、基本的にユニット径に対して箱が小さすぎるので、どう頑張っても低音は出ていませんでした。それでも日本人には大丈夫。日本人は基本的に低音を知らない民族ですからね。

実はかないまるは、当時欧米人が「ゴッキュッパ」スピーカを聴いて絶句している現場を何度か目撃しています。「壊れているのか」とかないまるに質問した外人もいます。「リズムがないじゃないか」というのです。

当時は評論家も「低域は100ヘルツくらいから落ち始めてもダラさがりで延びていればそれはそれでよい」みたいなことを平気で書いていた時代です。そんなんだから日本のスピーカは世界的に孤児になるんです。パイプオルガンの開放管はかろうじて (それも単独音を出したものは) 聴こえても、ベースが聴こえないのでリズムがとれません。「いざとなったらトーンコントロールでグイと持ち上げれば一丁あがり」みたいな乱暴な記事も読んだ覚えがありますが、それではコーンがひしゃげて音が歪んでしまいます。

ブランドを外したらどこのメーカ製か全くわからない、そっくりスピーカが氾濫したのも実に日本的でしたね。他社のコピーを恥じることなくやる。全社横並び。今はそれほどではありませんが、20〜30年前は今の中国並みにハズカシイことをやっていたのが日本のオーディオ界でした。

ところでこのころ、ソニーにはラボーチェ (SS-A5) というウーファ径が20センチでハーベスに近い設計のものがありました。ハーベスと箱のサイズとユニット径の関係、ダクトの大きさなどはとても良く似ています。

実は「ゴッキュッパサイズの箱には20センチくらいのユニット径が適している」という考えは社内にずっとあって、30センチスピーカをもつ3ウエイの「ゴッキュッパ」スピーカを発売していないのはソニーくらいのものでした。当時のスピーカ屋さんが考える理想を具現化したスピーカがラボーチェだったのでしょう。

ボーカルがよく聴こえることを売りにしていて、それは間違いなく実現していたと思います。かないまるの記憶では日本製のスピーカとしてはよい音がしたと思います。

しかしウーファ径が大きくないし、2WAYでユニットが二つしかついていないスピーカでは、お買い得感が全くなかったですね。ステレオ誌のベストバイで一位をいただいた数少ないスピーカでしたが、30センチフーファが氾濫する状況では見劣りがして全く売れず、販売的には惨めな結果になったと記憶しています。

そういえば、その後SS-AL5MK2がベストバイ一位をとっていますが、販売的にはやはり苦戦したようですね (SS-AL5MK2は相当いいスピーカだと思います)。




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